菜根譚15、軒冕と林泉(劉備陣営と陳羣の話)






 「高位の者であっても、山野で隠棲している趣きを失ってはならない。

 隠遁の者であっても、政治に関わり世を治めていく方向性を失ってはならない」




 ・たった二行とかどんだけ難しいんだよと思いながら書いてますが(笑)

 これ本の方に解説が詳しく書いてありますのでちょっと紹介したいと思います。

 本文では高位高官のことを「軒冕(けんべん)」と表しています。これは当時の貴族の用いる車と冠を表すのだと。

 「軒」とは散々装飾のついた高位の者が用いる馬車なのですが、これに乗るほどの高位の者は自らの権勢の保持、保身のことで頭がいっぱいなのだと。

 その他のことなど顧みる余裕がない。高位に就いたのはともかく、世の中を良くしていこうとするとかより良い仕事をせねばということも持てない。そもそも高位に就いたという達成感も満足感も持てない。

 だからこそこういう人は隠遁(いんとん)の風情、山林に籠って隠遁生活を送っている風情を忘れてはならないというわけです。



 これどういう感じかといえば、スイカに塩を入れるとか、カレーに隠し味でコーヒーとか、なんかそういうのに非常によく似ているといえます。全然本来入れるべきものではないし、本来入れるべきものからは圧倒的にかけ離れている。でもたった0.1%のそれが99.9%のその他を完全に変えてしまうほどのインパクトを持つわけです。風味を引き出し、新しい味わいを作り出してしまう。深みを引き出すともいえるし味わいに新しい平面を作り出してしまうとも言えます。ちょっとした隠し味の本当に恐ろしいところだと言えるでしょう。



 ・そういう意味では、全く関係ないものを取り込むことによってその本来の仕事まで引き立たせることが可能であるし、また合理的でもあるというわけです。「それ一筋」でやっていくということはある意味その他のものを取り込む流れはなく、隠し味となるべきことをも取り込まないことでもある。集中に集中を重ねて、余計なものを次から次へと削ぎ落していく方向性はこれとは真逆であると言えます。隠し味を次から次へと取り込んでいき、より豊かさを増していく方向性というのはあるのだと。



 ・陳羣(ちんぐん)という男がいました。

 陳羣



 この人はもともと劉備に仕えており、徐州という地は非常に危ういということを劉備に献策したのが三国志の初登場シーンと思っていいのかなと思います。曹操、呂布、袁術と狙っている諸侯が多い中でよりによって徐州という地を取るということは非常に危ういと言いましたが、劉備はこの献策を断り、徐州を手にしています。それくらい自分の領地が欲しかったのが当時の劉備だったのでしょうが、その後呂布に奪われるし呂布を滅ぼした曹操によって取られるという状態になります。つまり陳羣の考えていたことは正しかったのですが、それが用いられることはなかった。

 でもその後曹操に採用されてメキメキと頭角を表していったように、才覚はあるわけです。



 ただ劉備陣営は各地を転戦していた上に、その中核が桃園の誓いであったように、劉備・関羽・張飛であるわけで、情が非常に濃いんですね。プラスにみれば才能とかどうでもいいわけですし、この繋がりの濃さこそがこの集団を為す根源だったといってもいい。この集団の繋がりの濃ささえあれば、生きていけるわけです。理屈とか計画とかどうでもいい、その場のノリが大切だし、だからこそ士気も高い。そのノリを大切にしていけば本当になんとかやっていける集団だったわけですが、でも勝っても勝ってもなぜかジリ貧だったわけです。せっかく手にした徐州も気づけばなくなっているし。なぜかといえばまさにその表裏こそが重要であり、つまりそのマイナスな部分ですよね。「それじゃダメだよ」とか「もっとこうしたほうがいいよ」と言うヤツが必要だったわけです。つまり陳羣ですよね。頭が良くてピシャリというようなヤツが必要だったわけですが、大体そういうヤツはノリが悪い(笑)常に褪めているわけです。「いやそういうノリとかいいから、徐州はやめたほうがいいよ?」とこのノリノリの集団に対して言ってくるような陳羣は、非常にウケの悪いヤツだったことでしょう。

 「なんだあいつ。劉兄がせっかく苦労した末にこの徐州の地を治めることになったんだぞ。興ざめなこと言いやがって」多分そういう空気感が非常に強かったと思うんですよね。そして徐州が手元からなくなった時にあーしまった、陳羣の言葉は正しかったと思うわけなんですけど、所詮劉備軍と陳羣とでは水と油なわけです。多角的な視点から冷静に見通して今必要なことを見抜いて助言してくるような陳羣は、「うおおおおオレたちは最強だぜ!劉備愛だぜ!」みたいな集団とは相容れない。

 劉備としては、この集団に陳羣みたいなヤツを組み込む必要性を感じるわけなんですけど、じゃあどうすればいいかといえば「第二次桃園の誓い」的なものを必要としていたと思うんです。頭のいいヤツを必然的に組み込めない組織なわけですから、劉備陣営のナンバー2として強引に組み込んでしまわなくてはならない。そこにさえ組み込んでしまえば、ノリのいい集団のことですから「うおおおおお!やっぱこの人は頭がいい!一生ついていきます!」みたいなのは比較的簡単にできたと思うんですよね。

 ……とはいえもう陳羣は愛想を尽かして去ってしまったし、これからどうしようかな、とりあえず袁紹のところでも頼ってみようか、みたいな場面があったんじゃないでしょうか(いつもの妄想ですが(笑))



 そして陳羣は曹操に仕えますが、こいつはすごいということで目をかけられトントン拍子に出世をし、司空の地位に就きます。

 曹操も亡くなる直前には次の代の曹丕を頼むぞということで呼び出しをしますが。

 ここで呼び出されたのは陳羣・曹真・司馬懿なわけです。

 司馬懿は曹丕の後見役でありお守り役であり、教育係やってるわけですからまあ当然と言えば当然です。曹操がこいつすごいなと思ったのはあるでしょうけど、次代の曹丕のお守り役と考えれば意味合いは少し薄れると言えます。

 曹真は曹一族ですし、曹丕と常日頃から一緒にさせていたということであれば仲がいいし、武勇も優れているということが言えます。つまり切れ者の司馬懿と武勇に秀でた曹真、この二人が呼び出されるのは曹丕繋がりという意味合いがけっこうあるわけです。



 でも陳羣は別に曹丕繋がりではないわけです。

 純粋に文官としての秀でた才能と信頼とを買われたわけです。

 呂布が滅んで陳羣が曹操に仕えるようになって22年目、曹操が死ぬわけですが。他の古参の武将たちがいる中で呼び出されたことの意味は破格だと言っていいでしょう。

 そして九品官人法が始まります。



 当時、尚書という地位に就いていた陳羣の献策により始まります。


「宮中に詰め、皇帝の文書の管理をつかさどる秘書官の役であったが、後漢以後は、光武帝の親政にともなって、権力の中枢を担う実権を握り、独自の官衙である尚書台を従えるようになった」

 こういう仕事のようですね。

 九品官人法は世界史でもテストに出てくるポイントですが(笑)、陳羣という人はこれを始めた人ということで、歴史上や世界史でもけっこう重要な地位を占めていると言えるでしょう。これはその後350年ほど実施され、隋の時代には廃止されたようです。




 ・ということで長々と陳羣について紹介しましたが(笑)、本題は「隠し味」ということなんですよね(笑)

 劉備陣営でもしも劉備に惚れ込み(実際、陳羣は結構劉備好きだったんじゃないかと思います。でも恐らくは献策を拒絶されてへそを曲げた(笑))、劉備陣営の中核に入っていたらかなり歴史は変わっていたように思います。劉備・関羽・張飛・陳羣先生となっていたら、そうして頭のいい人とか一芸に秀でた人を積極的に中核へと入れる仕組みがあれば劉備の行く末は大きく違っていた気がします。これって重要なことだと思うんですね。

 恐らく劉備陣営に諸葛亮が入ってきた時にある独特の空気感を一番最初に味わったのは陳羣だったと思います。諸葛亮は自らの実力でそれを払拭できましたが、陳羣はかなりイヤになったでしょうね(笑)


 そうやっていままでそっちの方面に秀でたヤツはいなかったというのを珍重する空気感がなかったので反省した、それによって諸葛亮が出てきた時に劉備はどうしても諸葛亮を諸葛亮先生としてその中核に取り込まなくてはならなくなったわけですが、それは陳羣の登場時に比べてやはり遅くなるわけです。198年から207年ですから9年ほど遅くなったわけですが。この後劉備陣営は大きく飛躍していくことになります。それは諸葛亮の凄さだというのは超有力な説でしょうけども、実際のところは劉備陣営が自分たちと毛色の違った人々というのを取り込むこと、取り入れることに寛容になったからだとも言えるように思うわけです。それは言ってみれば隠し味が効くようになったともいえるのではないでしょうか。




 「カレーなんてオレたちだけで十分だ」と言っていた人参と玉ねぎとじゃがいもがいたわけですが、ここでコーヒーを入れてみようと思ったと。「何言ってんだ!カレーにコーヒーなんて合うわけがない!」と玉ねぎとじゃがいもは大反対だったわけですが、人参は三顧の礼によってカレーにコーヒーを迎え入れることに成功したわけです。誰もがそんなんうまくいくわけがないと思っていたところが、意外とコクと深みが出て今までよりおいしいカレーになったと。「こりゃコーヒーの凄さを認めんわけにはいかんな」ということでコーヒーは先生として崇められた。

 そういう感じの話なのかなと思います(笑)








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