こころを読む前に

 ということで書店に行ってきた。  カミュ『シーシュポスの神話』  カフカ『変身』  夏目漱石『こころ』  の三冊を買った。  この三冊に共通する点といえば、全部以前に買ったことがあるという点であって(笑)  気が付きゃみんなどっか行ってしまった。  多分、大学を卒業して結局文学をやるとか評論をやるとか常に一生懸命やってきたけど、終わってみたら何も残らんかっ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その1(叔父と先生との一体化)

 ということで成り行きで「こころ」についてある方が書いた文章を読むことになり、じゃあその前に改めて読んでみるかと開いてみたのだが。これが改めて考えてみると高校以来だから20年近く放置していたことになる。手元にあったのに全く読んでいなかった。これってのは非常に怖いことで、「こころ」とくれば「あれか」と思うわけだけどそれがその「こころ」と全然一致してないどころか本編読めばわかるじ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その2(国語教育の教材としての「こころ」と答え)

 ・Kが自殺した原因については小説内に書かれている通りであり、先生の回顧でも見られるとおりだが、恋愛だけが問題で自殺したとは考えられないというその先生の思いは正しい。何しろきちんとそれはそう書いてあるのだからそれはまさにその通りであり、Kが失恋して自殺したわけではないことは全文を読めば容易に知ることができる。 とはいえ、高校の教科書というのは全文を扱えないのでどうしても切り取…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その3(理念理想か心神耗弱か)

 かつて神風特攻隊で特攻していった後に残された人たちの文章を読んだことがある。ふとその時の事を思い出した。その時はそうは思わなかったし、今となってはよくわかるのだが、その残された人たちの文章というのは非常に無個性的なものを感じさせたことをよく思い出せる。罪悪感というのはもっと個性的なもの、というより個々の内面の問題であるからもっと個性的で一人ひとり違っていてもよさそうなものだ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その4(自殺という箱の、表面と中身の問題)

 Kの自殺に大した意味がない……ということは重要だと思う。これは我々の盲点を衝いており、我々は「あの優秀で前途有望なKが自殺をした、となるとそこにとんでもなく重大な動機があるはずだ、じゃあその秘密を解明しなくては」となるようにできている生き物だと思う。ここでは自殺と動機とがセットになっている。つまり「自殺」という箱が我々の前に示されれば、当然その箱の中身を開けてみなくてはなら…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その5(叔父と先生との一体化としての罪悪感)

 ・正直上はそこまでいらん気がするのではしょります。  ・下が始まって短い期間、先生と叔父さんの描写が続く。 「何も知らない私は、叔父を信じていたばかりでなく常に感謝の心をもって、叔父をありがたいもののように尊敬していました」 こうして先生の叔父に対する気持ちというのは圧倒的にプラスの気持ちであることが明かされる。 ところがこの「叔父夫妻が結婚を勧めてくる」に至って、先生の…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その6(墓と妻と白骨と)

 ・大学の頃図書館に毎日通っていましたが、その頃思っていたのは、図書館というのは昔からの偉人たちの叡智であり、やって来たことの結晶、そしてその集まり、ということになるのでしょうけれど、その大学に山ほどある本で、自らの内にある疑問、不満、そうしたものを満足させられるというのはいかにも幸せなことだなと。でももしも、その不満をもしも満足させることができなかった場合はどうなのか。それ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その7(世界に時々開いている穴が文学であり、人生である)

 ・この「文学的な」範疇の話ってのがいかに理解され難いかというのは、そもそも普通の話であり普通の次元の話であるとは言い難いところに発していると考える。恐らくはこの世界の「普通」の次元というのはまあそりゃあ普通であり、特殊な範疇に別に入らなくても一生生きていける、そしてその特殊な「穴」みたいなものに落ち込むことさえなければ別に何事にも気づくこともなく一生を終えることは十分可能な…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その8(結婚は急に決まるか、感情があれば先生に死後を頼むか)

 ・毎日定期的に書こうったってそうポンポン浮かんでくるわけねえだろうがと思いつつも、いざやってみるとポンポン浮かんできたりするからある程度定期的かつ強制的に見返してみるってのは意外と有効なのかもと思いつつ。  ・Kの死について先生はどう思うのかについて知りたい場合は317ぺージ末、五十三の末あたりに次のように書いてある。  「同時に私はKの死因を繰り返し繰り返し考えたので…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その9(文学という「薬」)

 ・国語と文学の決定的な違いというのはどこにあるかと言われれば、恐らく意味性においてだろうなあと思います。 例えば「ば」「か」「ち」「ん」なんて四文字並べたところで、これが海外の日本語学習者にとってはいくらやったって「ば」「か」「ち」「ん」と繰り返すだけでしょうし、それは別に私たちだって英語の単語帳を開いて似たようなことをやっているわけです。「dictionary」とあっても…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その10(Kの内にある反抗心についての描写)

 前回は国語的な読書と文学的な読書は違うという話を書きましたが。客観的ということを突き詰めていくとどこかで主観的なこととか個別具体的なこと、特殊な事というのを含めていくという方向性が必要になってくると思います。そもそも客観的なことということでさえ、その元は主観であるということです。主観的なものの集まりが客観を作る以上、「主観的だ」ということは客観を形作る石垣になりはするでしょ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その11(奪い合いの精神と譲り合いの精神)

 ということなんだが、今日は別に「こころ」の本文に入らずにグダグダと考えてみることにする。  まあ読書感想文なんだから、正解らしき正解なんてのを追究しなくたってたまにはいいだろう。ほっといても追究したくなるのはやまやまなんだが(笑)まあ正解といえば、Kの自殺の原因は失恋ではないのではないかと先生が思う(一読者として私も思う)だけの話で、失恋のせいじゃないって確固たる証拠…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その12(箱は殉死で中身は別物)

 奪い合いの先に答えはあるのか、譲り合いの精神が大切なのか、それともそれらの複合形か……まあ究極を言えば「臨機応変」ってことになりそうですが、具体的にそれがどういう形になるのかはわかりませんね(笑)そもそも、奪い合い人はガンガンいくでしょうし、譲り合う人は下がる一方でしょう。それを思えば、「ベストな形は臨機応変だよ」なんて言ったところでそんな器用なことできる人がこの地球上に果…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その13(生活の事しか見えていない先生)

 最後の五十六にはこうある。 「私は妻を残していきます。私がいなくなっても妻に衣食住の心配がないのは仕合せです。私は妻に残酷な驚怖を与えることを好みません。私は妻に血の色を見せないで死ぬ積りです。妻の知らない間に、こっそりこの世から居なくなるようにします。私は死んだ後で、妻から頓死したと思われたいのです。気が狂ったと思われても満足なのです」  最後の最後まで先生にとって…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その14(世間体のことすら構わなくなった先生)

 ということですが、あまり書く内容がなくなってきたので(笑)とりあえず箇条書きにしてまとめておこうと思います。  ・前回とも重なるが、五十三のくだりにはこう書いてある。 「自分が最も信愛しているたった一人の人間すら、自分を理解していないのかと思うと悲しかったのです。理解させる手段があるのに、理解させる勇気が出せないのだと思うと益悲しかったのです」 結婚後の先生の、自分と…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その15(Kが失恋死したという錯覚)

 ・書く内容はあるんだけど、前回前々回とかと内容がかぶる →あーめんどくさいな、はしょろうかな →言わなくてもわかるでしょ →そもそもほとんど書かない →書かないといけない前段階がないから書けない →めんどくさいからはしょる 的な流れになってガンガン削ってそもそも何の話をしているかわからなくなる的な流れがあるなと思ったので、きちんとめんどくさくなっても書くことが重要だなと思いました(…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その16(先生という普通の人の普通な破滅)

 自分で思っておいてなるほどと思ったのは、この先生って人はKの死後であり物語の終盤に破滅しているわけです。その破滅というのは生活的なもの、経済的要因においては全然破滅していない。それこそ働かなくていいどころか「自分の死後残された妻が生活に困らないほど」の余裕があるわけですから、まあかなり裕福な側だと思って間違いない。そうではなく、先生は内面的な意味合いにおいて破滅しているわけ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その17(流れであり、ドミノ的なものに潰された先生)

 生の意義、即ち有意義か意義がないか(有意義とはいうのになぜ無意義とはいわないのだろう、と思ったら、調べたら普通に出てきたので無意義という言葉を使う)、という基準から見ればKの死というのはあまりにも意義がない。優秀で、いくら前途有望でも死んでしまったものはもうどうしようもない。それを思えばKの死をもたらしたその大本に当たるところのKが従っていた教義というものがいかに素晴らしく…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その18(先生は回復可能であり問題は解決可能だったのか)

 先生はKの死をきっかけとして内面的には破滅した。じゃあ、これは元に戻るようなものなのだろうか。回復可能なものかどうか、というのは非常に重要な基準だと思える。要するに最終的には「殉死」で死なねばならないようなものだったにせよ、ある時に「こうしたら直りますよ」と言われて直るようなものであるならば、そこまで心配する必要はないしそもそもこの「こころ」は「こころがいずれ回復する話」と…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その19(Kはあの場面でどうしても自殺していたということに対する反証)

 ということでここまでで先生の経緯であり流れというものを意識して書いてきたのだが、ここにきて違和感を感じ始めるようになってきたのでそれについて書くことにする。今までの話は一体何だったの、というくらいの変わり様なんだけどまあそう思っちまったんだから仕方がない。  違和感というのはKの死についてのものだ。 Kの死は失恋死ではない。この先生の感想であり主観的な見方は恐らく正確…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その20(からくりを看破したK)

 こうして今までは一体なんだったんやというくらいに見方をがらっと変えて書こうと思いますが、こうなるとKについて書くことが増えるようになるというのは恐らくたまたまではないなと。先生側からの見方が多いというのは偏っているということでしょうし、普通ならもう書くことのないK側からの視点というものを意識できるということが見方が変わっているということでもあると思います。そもそもが「単発で…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その21(先に仕掛けたのはK)

 ということで前回書いたように、Kの内心にある祝福とは真逆な気持ちとしての呪詛(じゅそ)ということは重要でしょう。Kは意図的に先生に先手を打った、ところが先生は先生で先生の考え得る限りの手でKに反逆したし、Kの方ではそれがあまりにもセットになっていすぎるがゆえに看破した、というのが前回の話です。  ところで、先生の言葉を借りて言えば奥手で慎重なはずのKが心を打ち明けるという…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その22(叔父に執着していた先生の醜さ)

 これはもう本当に感想だけになりそうですが、「執着」ということがこの話の根に繋がるところがあるように思います。先生はものすごく執着しているし、こだわりがある。過去のことであり、叔父との関係のことが常に先生の念頭にあるんですが、その執着という流れは物事の経緯をすっ飛ばすだけの力があるなと思いますし、ある意味物事の流れであり経緯というのと同列に並んでいる、いやもしかしたらそれ以上…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その23(Kの死についての分析)

 ということでしばらくKは実は先生や妻に対して強いわだかまりを残していたんじゃないか、悪感情をたくさん残したまま死んだんじゃないかという立場から書いてみましたが、残念ながら行き詰まりました(笑) そうやって物語をさかのぼっていくと、いろいろと辻褄が合わないことが多々あることが分かってきます。書いていると実はけっこうおもしろかったんですが(笑)  ・Kという男はそもそもそ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その24(先生の内にある依存心)

 ということでKは別に悪感情を持っていないし、無関心とその空虚さの中で自殺したということを書きましたが。そうなると残される先生と御嬢さんは結婚するし、別に幸せになるなら思い残すこともないなと。そのことを本当に喜ぶものであったにせよ、それ以上のわだかまりなどというものは死ぬ直前にはなかったのではないかと考えられるかと思います。そのぐらいすっぱりと割り切れていた。 ところが先生の…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その25(先生についてのまとめ)

 ということでまとめますと、Kの死の時点では先生の内にあったのは一過性の不安、一過性の罪悪感、そして強烈な依存心(そしてすっころばされた依存心)といったものだと言えるのではないかと思います。 一過性の不安というのは、先生がズルしてしまったことによる不安であり、それがKにばれやしないかと怯えるような性質の不安です。 一過性の罪悪感というのはそれとかなり近いもので、「Kが失恋死してし…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その26/本当に感想文

 今回は本当に個人的な感想文です。  ・一冊目が書き込みだらけで読めなくなったんで、買いに行ったら一冊も置いてなかったのにビビりました(笑)そんなに売れているのか、はたまた本屋さんが仕入れを忘れているのか怠っているのか(笑)  ・そもそも文学なんてものは役に立ってナンボだなって感じが強くあります。「こころ」だってそもそもたまたま読んでいたから再び手に取ってみたものの、…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その27(卑怯の種類)

 ということで終わりにして次のテーマに進もうと思ったらちょっと思いついたことがあるのでまとめることにする。 先生とKとの卑怯の差異について。  ・先生の卑怯というのは具体的にはKに打ち明けられているのにも関わらず、奥さんに言って御嬢さんをもらったことだと言える。卑怯な真似をしてかっさらってしまった、そしてそのことが誰かにバレはしないかと怯え、Kの死後にもその意識は残り、…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その28(続卑怯)

 卑怯について前回書いたが、これはもしかするとけっこう本題からは外れるものかもしれないなあと思いつつも。 まあ読書感想文なので別にいいかと(笑)  ・卑怯ということに関して言えば、そもそも「人は卑怯なようにできている」ということと「その卑怯な生を生きない」という卑怯があるということで前回書いた。さらには先生が御嬢さんをかっさらうという具体的な卑怯もあるにはあるわけだ。あ…

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「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その29(「こころ」は薬足り得るか?)

 あーまだこの「こころ」というお話を誤解していたなと。誤解というより誤読だし、客観的にだのやれ評論だのといった話でしようと思ったら、それは確かに必要ではあるけど、しかしまだ誤読し続ける。もっと主観的であり経験的に語られなくてはならない、そういうものがあったことにすら気づかずにいるなと。 ということで、この先生の経験はオレの経験そのものだなと思ったわけです。 そもそもが胡散臭い…

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