嘲笑






 以前のことだが、人と話していて赤い火は青い火よりも熱いという話になったことがある。
 それは思わず出た話であり、例えば中学をなんとなく過ごしていればアルコールランプあたりで火の色だとか、あるいは星の色が青の方が赤よりも熱いだとか、あるいは自分の家でガスコンロを使った経験があれば強火にすれば青の方が火力が強いだとか、そういうことを通してああ、青い火は赤い火よりも強いんだねというのをなんとなく学んでいくんだろうなあと思うのだ。そう思えば、そういうことをきちんと学べたということは環境がどうやら良かったんだろうなあとも思うのだが。
 しかしその人はどうやらそれを知らなかった。さてこの場合どうするかというのがテーマである。


 ・ここで「え、そんなことも知らないの?」というのを明らかにするのは非常に容易い。顔色とかで「そんなことを知らないことは非常に恥ずかしいことだ」という態度を人は簡単にとってしまえる。
 しかしそれによって何か得をすることはあるかって何もない。ただその場で優越感を得るだけで、相手に屈辱を与え恥をかかせて関係は険悪になり、今後の関係において重大な支障をもたらすだろう。そういう意味でこの話は非常に厄介な話であり、そういうことがいろいろと致命的な事態に繋がりかねないことがある。
 考えてみれば玉ねぎの皮みたいなもんで、こんなことも知らないの?をぶつけることは非常に容易いことでもある。中学生なら小学生にぶつければよいし、高校生は中学生を見つけてやればよい。まあそこらではよくそういうことも起こるだろうし、みんなが通る一過性の優越感ー劣等感みたいなものである。それを例えば理学部生が農学部をあざけるとか、法学部生が経済学は卑しい学問だ、なんて言ってるのは見たことがない。みたことがないんだけど一応自分の属する畑の常識をぶつけて、こんなことは法学部のイロハのイだ、なんてことをやることはできるんだろうけどそういうのは見たことがない。
 理由は簡単で、そんなことをしたところで内心はともかくとして、それがあまりにも不毛だからだろう。


 ・さらに言えば、我々は果たして小中高を常に100点取ってきたくらいに優秀だっただろうか。少なくともオレはそんな優秀な人間ではなかった。どっかに一つや二つくらい抜けがあってもまあそういうものだろうし、そういうのは日々の生活に支障は別にない。オレは数学のテストで3点取ったことがあるがそれを自慢したことはない(自慢にもならないが)。
 そういう人生で知らなかったことがあれば、そういうのは所詮知識の話であってその場で覚えればよい。そこまで難しい話でもない。暗記が今でも最重要であるというほど暇ではないというだけのことだろう。そして何よりも、そんなことよりももっと重要なことがあるというだけのことである。
 つまり冒頭の話だが、いかに巧みに今後の関係性を壊すことなくそれとなく相手に教えつつもさらっとその場面を受け流すことができるか。これというのはかなり高等テクなんじゃないかと思えるのだ。それこそ暗記事項を覚えることよりもはるかに難解で、地頭の良さが問われる。


 ・以前一緒に仕事した人の中に
 「いやーオレバカだからっすねえ」といってガハハと豪快に笑い飛ばす人がいた。いやいやそこまで卑下せんでもと思ったものだったが、
さらっと自分を卑下してしまえるその身動きの軽さが印象的だった。
 例えばその人だったらどうするだろうと考えた。


 多分こう言うだろう。
 「あ、赤い火って青い火よりも温度が高いって思ってますよね?いやー実はオレもつい最近までそう思ってたんすよ。わかるわー。だって熱そうに見えますもんね。青い火冷たそうに見えるもん。でもこの前人に言われて(ここでスマホで検索)、なんか赤い火って青い火よりも温度低いらしいんすよ……あこれこれ、赤い火は300度くらいで、青い火って1000度越えるらしいんすよね。すげーっすよね。オレ全然知らなかったからすげー勉強になって。いやーちょうどホットな話題でよかったわー。オレ誰かにこのことずっと話したかったんすけど機会がなくて(笑)助かりました(笑)」


 多分そういうような言い方でさらっと教えてしまうに違いないのだ。
 これが何がすごいかって、まず上から目線の正論で相手を教え諭すというようないやらしさがないこと。そうなると人のプライドを真っ向から損ねるので言う意味が、というかメリットが何もない。
 次にその最も言いにくいところをズバッと切り込むこと。普通これができない。オレもできなかった。
 三つ目、この認識の差が今後の支障となる可能性を完全に解決していること。下手に改善しておかないと、この赤い火は当然熱いものだという認識が大々的に表に出てしまって、こうなると地位やプライドと相まって、もう覆せるものも覆せなくなる。こういうのが作業や仕事にとんでもない悪影響をもたらすことが時折あるものだが、その芽を完全に潰してしまっていること。
 そしてそうした雑多なものがあるにもかかわらず、それをそうと見せないということ。これはもはや技だとか曲芸(?)だとか言っていいことだと思うのだ。そしてそうしたことを通して事態を完全に収めてしまえる。解決してしまう。


 いや一番の見どころは何かって、「なんだよこんなことも知らねーのかよ」をやるのは容易いんだけど、そうはしないと。敢えてこういうことをやるっていうのは相手に対する敬意があり、配慮があり、何よりも根底に相手のレベルを上げてやりたいという優しさがある。そうしたことをこうしたやり方一つであっさりと解決してしまえるということがすごいことなのだと思うのだ。その人とはそんなに長い間一緒ではなかったが、なんかそういうのが非常に印象的な人だったなと思うし、今それを思い返すとやはりすごい人だったんだなと。当時はそれを言葉にすることすら難しかったのだが。


 ・そういうわけで。
 そういう地頭領域の話もあれば暗記事項的な話もあると。そういうわけで優劣なんてそうそう容易に付けられるもんじゃないという話。暗記事項を知っているかいないかなんてのは物知りであれば有利だし、知らなくても別に受験項目とか一生使わないし関わらないだろう。
 ところがそうでない領域、こうした解決法とかそういうのに頭を巡らせるとかは非常に難しく、高度な領域だといえる。暗記事項を熟知していてもそうした機微や総合的な状況に思いを巡らせることができなければ致命的。そういう意味では、0×100=0だし、100×0も0なのだ。暗記事項を知らないとバカにしたくもなるが、バカにしているその人が今現にいろいろ破綻していてはそれ一体どうよと。
 そういう意味で目先の優劣に一喜一憂して拘泥していてはならんなと思ったという話。というより、目先の優越感にこだわるってことはそれはそれで総合的に破綻しているって話でもある。




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