バカとクズ






 バカとクズの差はどこにあるのか。
 気づけばこの不毛な話を延々と頭の中で考えていたという。まあ日本人がどっちかに必ず分類されるという話ではないが、人を侮蔑するだけの大した意味のなさそうなこれらの言葉の中にも意外と微妙なニュアンスの違いというものはあるものなのかもしれない、などと思っているところ。



 バカというのは人を侮蔑する言葉ではあるが、しかし必ずしも悪い印象だけがあるわけではない。愛すべきバカなんてことばもあるわけだし、あるいは先日書いたような頭がいいはずなのに滅ぶだけの国に仕え続けた諸葛亮なんてのは愚か……というより愚直な印象を与えるし、この一事をもって諸葛亮をバカと呼ぶ人は恐らくいない。あるいはそう呼んだにしても、そこにある印象は必ずしも悪いものではない。
 かと思えば対象的に劉禅という人はその国の皇帝であったわけだが、この人は暗愚で有名である。劉禅の幼名である阿斗(あと)を中国ではバカという言葉で使うというのはあるそうだが、まあそういう人である。まあこの人のせいで蜀という国が滅んだとまで言うと言いすぎだろうが、しかしそれにしても何か打てる手はありそうなものだがそういう画期的な手を打ったという話は聞かない。一説によると長坂で劉備に投げられた際に打ち所が悪かったのではという話もあるほどである。しかしこの人もある臣下が諸葛亮を侮蔑する言葉を吐いた際に激怒して処刑したという話が残っている。確かに劉禅は暗愚で凡庸な皇帝ではあったかもしれないが、人として見ると決して劣った人だとは思えない一面もある。むしろ人として見ると、諸葛亮という人を真っ直ぐに敬愛したいい人であったのかもしれない。
 二つだけ見て言うのもなんだがまとめると、諸葛亮みたいな賢い人が愚直に生きて死んだ、そこには人を感動させるものがあるし、あるいは劉禅のような暗愚な人でも諸葛亮を罵られて怒ると。そこには劉禅という人の人となりが表れると我々は解釈するところがある。それは決してバカのマイナス面だけではない。まあ、諸葛亮は北伐にほとんど成功していないと思うと、国力を衰退させかねない北伐を繰り返したことはどうかと思うし、劉禅だって乱世によりによって愚かな皇帝が現れてただ空しく蜀を滅ぼしたと思うとそういうリーダーが上にいるってことはどうなのかという視点もあるだろう。これはバカというものの明らかな問題点だろうしそこまでカバーしきれるものではない。


 ・ではクズについてみるとどうか。
 我々がクズというものを思う時、バカというものについてあったような印象とはかなり一線を画している。諸葛亮はバカだったかもしれないけど本当は賢い人だったんだよとか。あるいは劉禅は暗愚だったんだけど諸葛亮をバカにされて激怒したように、根はものすごくいい人だったんだよということができる。人柄についてまでは否定されない。しかしクズだという時には軽くその一線を越えてくる。つまり主に人柄についてもう取るべきものがないという意味合いを込めてクズだと呼ぶ。劉禅はバカだったかもしれないけど、でも人柄は悪くはなかったんだよという風に弁護できる余地がそこにはない。


 例えば司馬懿という人は明らかにバカではない。同時代人の中で恐らくものすごく賢い。しかしじゃあやったことは何かって、恩人であるはずの曹操一族と夏侯一族を皆殺しにしたことは先日も述べた。隠居させるとか庶民に落とすとかそういう手はあったはずだが、しかし司馬懿はそういう方向性は選ばなかった。まあ皆殺しは中国の歴史上はよくあることではある。恨みを持たれて後々憂いとなる可能性があるくらいなら皆殺しだというのは決して珍しいことではない。そういう可能性を後々まで残しておくくらいならば皆殺しにというのは非常に賢いとはいえる、しかし曹操はあなたを取り上げた恩人でしょうがと。そういう意味での司馬懿はクズだというニュアンスが非常に強いらしいってのはどうやらあるらしい。結局岳飛(がくひ)が司馬懿は寄生虫だと言った(確か岳飛だったと思うが)ということ、そこにあるニュアンスってのは何かって、要するに司馬懿はクズであると。ああいう恩人をそういう目に遭わせるようなやつがろくな人間であるはずがない。そういうものを歴史的な教養として持った時に、恩は恩で返すべしとか、ああいう司馬懿みたいなやつは頭いいかもしれないけど決していい評価はしちゃいけないみたいな見方になっているように思うのだ。多分歴史的にみてもここまで酷評されている人物は他にはなかなか見当たらない。


 まあ個人的には諸葛亮と司馬懿については全然別なことを思っているが、社会的な通念上で考えるとまあざっくりとこういう感じになるのかなあと思っている。バカとクズの違いというのもわかりやすいし、昔の人がそうした歴史の経緯を見て思ったこと、考えたことはそういう感じに大体まとまるのかなあと。
 そういうわけで歴史的に考えるならバカとクズは全然別物になるという話だが、次はバカである、バカなんだけどクズでもある、あるいはクズなんだけどバカでもある、あるいはクズであるというあまりおもしろくない4分類をして考えていきたいところ。まあなんか思いつくところがあれば。




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