バランス感覚2






 中国の歴史もそうだが、日本の歴史も成功の形というのは他者のために忠誠を尽くすという形がメインになっていることに気づかされる。例えば司馬懿は曹操に仕えたが、曹操の死後クーデターを起こし仕えた曹一族とその重臣である夏侯一族を皆殺しにしている。そして魏が滅んだ後の晋を築くことになるのは司馬一族となっている。その好敵手であった諸葛亮が死後1000年経っても劉備に生涯をかけて仕えたその忠義が人の心を打つのに対し(戦前の国語だったかの教科書には諸葛亮の記述があったらしい)、仕えた主君に対する恩義を顧みるどころか仕えながら国ごと乗っ取るという寄生虫まがいのことをした司馬懿に関してはこの1500年以上悪い話しか聞かない。戦国時代には誰だったかが司馬懿は寄生虫だ、と罵る文章を出していたが、はて誰だったか。
 日本の歴史もそうで、天皇というものがまず中心にあり、その天皇を補佐するための組織を作る、つまり天皇のために常に忠誠を尽くすというのが最もしっくりくるベストな統治体制だということを恐らく中国から輸入したのではないかと思うが、残念ながらそこまで日本史に詳しくないのでわからない。とりあえず中国以上にこの統治体制は日本においてはうまくいったということなのではないだろうか。


 ・前回は「他人の幸せを望むのが人」という建前でありながら、その実は「他人が幸せになるとまるで自分の人生を越えられたかのように感じるのがいやなので、他人の人生を病的なまでに潰そうとする」という人の本質について書いた。そしてこれは少子化というものに間接的に関係する要素でもある。新しい時代の人々が自分たちの時代を超越しかねない。ならばそういう可能性を潰せば潰すほど、その可能性は薄れることになる。少子化が進めば進むほど、我々の生はそうした脅威に脅かされることはない。そうなると少子化ほど望まれた概念というのはなかったわけだが、皮肉なことに今や海外大学生を日本人よりも圧倒的に優遇しているおかげで、学歴を軽視する日本の風潮も相まって大学が実質的に海外の人たちのための組織となりつつある実態がある。そういう環境を望んだのは日本人なのだが、その空いたスペースに海外からの留学生がすっぽり入ることになるとは考えなかった。つまり間接的に海外の人たちを日本が養うことになるということに日本人は思い至らなかった。これというのは子孫に「自分たち以上の幸せを」と願いつつも「自分たちがそれによって排除されるようになっては困る」と考えるその結果でもあったわけだ。


 ・じゃあこれはそこまで頭が悪かったがゆえの結果かと考えるとそうではない。むしろかなり具体性もあり頭もよかった。ただ海外勢がそこまでの勢いで日本にやってくることが想定されていなかっただけの話だった。その結果国費で海外留学生を養う制度、そして「学歴などほとんどなにの役にも立たない」さらには奨学金という学生ローンがものすごく重いことが明らかになり、今の政権も出世払いを考え出し始めるような状況になっている。国費を払って海外留学生だけを育成するための制度というのも不気味なものだが、それを望んだのは意外と他ならぬ日本人であると。


 ・こういう状況を考えると思い浮かぶのは司馬懿だったりする。
 司馬懿は先述した通りで魏を乗っ取って晋を作るためにいろいろ工作した人物である。まるで寄生虫のようだと言われることもあるが、魏という大国に武将などたくさんいる中でこういうことをやってのけるというのはただ者ではない。そしていろいろと手を打って魏を無力化していったわけだが、その後作られた晋はそこまで長続きしなかった。つまり、司馬懿は手の届く範囲では極めて優秀だった、しかし次代のことになるとおろそか、そして死後1700年経っても悪評が伝えられることになるという点に至っては全く考えられていない。
 この点においては、その好敵手だった諸葛亮は確かに敗れはしたが、その子孫は晋代に厚遇されたこと、日本の戦前にも伝えられる忠臣像ということと極めて対照的だといっていい。司馬懿は戦に勝ち諸葛亮は戦に負けた。しかしもっと長い視点で見れば一時の勝ち負け以上の意義がある。司馬懿はその点で諸葛亮には及ばなかった。



 ・現代人、現代日本人の総体というものを考えると意外とその実態は司馬懿の方に行き着くように思われる。誰だって司馬懿は嫌うだろうが、自らの手の届く範囲でのベストというものを詰めていくことが意外と司馬懿そのものになっていることがある。自らの手の届く範囲を完全にしようと思うことが、次の代を大きく衰退させ、1000年経てば悪評しか残らないということがあるものだと。そしてその優秀さゆえに我々司馬懿に近づく。優秀であるがゆえに我々は司馬懿そのものとなる。
 こう考えると司馬懿という人とその像を考えること、その歴史を学ぶことは現代において非常に有意義なのではないかと思える。






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