モンキーターンについてその2






 モンキーターンってマンガは絶望の描き方が非常にうまい。
 と個人的に思う。
 河野さんの場合。正直別に好きなわけではない。プロペラ整備はうまいし、よくいえば完全無欠ではあるが、悪く言えば個性が薄い気がする。
 まるでそのあまり個性のない部分を埋めるかのようにこの話があると思う。




 洞口に見せられたスーパーキャビテーティング式プロペラ。理論では可能であっても現実には不可能とされたものを作ってしまった洞口に発奮して、河野は自分もそのプロペラを作ると意気込む。



 この欲望に吞まれている様子が、一番河野さんの個性が際立っているシーンだと思う。それまで一優等生としてしか描かれていなかった河野さんが、初めてその素顔を見せるのだ。
 ところがプロペラづくりは難航する。
 そして自分には無理だとはっきりと悟ることになる。



 その不可能を可能にするために一生懸命打ち込んできたのに、それが不可能だとはっきりと悟らされてしまう河野。
 そんな河野に声をかける犬飼。

 このシーンの犬飼さんは、このマンガ中で一番輝いていると個人的に思う。波多野らとトップ争いをしていた時以上に、この絶望の渦中にある河野に対して声を掛けている犬飼は。それというのは正論で、でも絶望から河野を引き戻すだけの力はないわけだけど、でも犬飼はその河野の絶望に対して挑もうとしている。この人の強さというのはいわゆる強さからきている強さではなく、仲間を思う優しさからきている類の強さだと思う。そしてこの直後のダービーも優しさを強さに変えて戦っていく。非常にかっこいい、いわゆる見せ場だと思う。まあ別に好きではないけど(笑)しかも主人公の波多野の敵役なので、あまりいい風に見られないのが残念なところなんだけど(笑)
 全てを捧げ、そして何一つ得られぬまま、その作業から撤退せざるを得なかった河野の心中は一体どれだけ苦しいものがあったか。当然だが犬飼の正論は河野の耳には入らない。そんな河野に犬飼は、自分が銅口スペシャルペラを破ってみせると約束し、その場を去る。



 この一コマが本当に。まるで河野の心中を表しているかのようにぽっかりとしているというのが。この一コマに描かれている絶望的なまでの空虚感というのが本当に好きです。
 流す涙もない。
 本当に何もない。
 得たものなんか何もないんだけど、それでも戦いの場に再び戻らなくてはならないというのが。



 その直後、ダービーで優勝した波多野に電話をかけている河野。



 さらっと「ヤル気をわけてもらったよ」と言っているが、この背景をもちろん波多野は知ることはないのだが。絶望をしても、それでもまたやろうと思っている河野のこの一コマの厚みに驚かされる。人はたくましいなと。それでもがんばれるし、またがんばっていかなくてはならないのだと。


 ここもさらっと自虐しているのだが。
 本当はこういうことがなければ、本来はSGに早々と出場してきて波多野や洞口と肩を並べて競っていたのはこの河野だったんじゃないかと。それくらい才能と実力があったと思う(個性は薄いけれど……(笑))。
 この後はもう最後まで確か出てこないんじゃなかったか。多分個性が薄かったから退場させられたんじゃないのかなと。







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