新戦国策秦4-4、魏の宰相である孟嘗君(もうしょうくん)が魏冄(ぎぜん)に魏に斉を攻めさせろという話






 ということで前回は樓緩(ろうかん)が秦王から聞かれたことをこういうことは親族に聞くものですといってさらっとかわすという話でした。まともに返すことは危うい。どこでどう引っかかってあいつは裏切りものだとなるかわからないので、答えをはぐらかしていくと。これが処世術というかいい生き方であるという秦の状況がまずいという話ですね。
 今回は薛公(せつこう)が魏の味方として魏冄(ぎぜん)に言うというくだりです。
 一応三つの番号を振りました。


 薛公(せつこう、孟嘗君のこと。本名は田文(でんぶん))が魏のために魏冄(ぎぜん)に言った。
 「①この田文は聞いております、秦王が呂礼(りょれい)に斉を授けてそれによって天下統一の業をなそうと思っていると。そのようなことが起こりましたならば、貴公の地位は軽いものとなるでしょう。斉と秦の宰相が集って韓・魏・趙の三晋に臨むならば、呂礼は必ずやこれに合わせて宰相となることでしょう。これというのは貴公が斉を収めることであり、それによって呂礼の地位を重くすることでもあります。斉が今までくらってきた天下の兵を免がれるということになれば、斉の方ではこれまで苦しんできたのは貴公が宰相として、今まで天下の兵を操ってきたためだとなり、貴公が恨まれる結果を招きましょう。

 ②そこで、貴公は秦王に言って今現に進んでいる魏によって斉を侵攻させる計画を進める以上の手はありません。斉が敗れれば、この田文が得たところをもって貴公をその土地を差し上げましょう。斉が敗れれば晋(ここでは三晋、韓魏趙、特に魏)が強くなり、秦王がその動きを懸念することとなると必ずや貴公を重んじて魏を取ろうとするでしょう。斉は晋に自都市を与え、それでも秦をささえることができなければ、晋は必ずや貴公を重んじることとなり、それをもってさらに秦に仕えることとなるでしょう。


 ③これによって貴公は斉を破って功績を為し、晋を操って重きをなすことができるのです。斉を破れば、貴公は自身の土地を定めることができ、しかも秦も斉も皆が貴公を重んじることとなるのです。もしも斉が敗れることなく、呂礼がまた再度用いられることとなれば、貴公は窮地においやられることとなるでしょう」


 ・ということで①~③と番号を振りました。
 ①は呂礼について、②③は魏冄のくだりです。②は主に外交関係、③は魏冄の身の処し方です。


 ・奇妙なのは、薛公である孟嘗君はもともと育ちは斉なのですが、それを切り離しておりあくまで魏の宰相としてここにおり、そして斉を攻めさせるように話を進めているということです。果たしてこんなに孟嘗君という人はドライであり、祖国が戦場になろうとも気にしない人なのであろうかというのが疑問です。しかし恐らくそれ以上に問題なのは呂礼が斉の宰相として確立され、固定化してしまうことなのでしょう。そうなるよりは、祖国が戦場になろうともなんとしてでも呂礼を追い出すよう工作をすると。それにこの計画は孟嘗君自身がやっているというよりは、3000人いるといわれる食客が計画しているものなのだろうと想像がつきます。


 ・ちなみにこの話は以前に出て来たことがあります。
 呂礼サイドで話が進んでいます。
 秦と斉とが手を組めば、世に平和が訪れる。そして秦と斉の重職を兼ねることとなる呂礼は、まさに両国の橋渡しとなります。しかし、そうなると誰もが困ると。戦乱の世だからこそ腕がなる。それなのに、平和になってしまったらおまんま食い上げです。そういう意味で、戦争がないと困る派と平和を求める派の争いがあり、これというのは戦国時代を通じて(いや、平和の世すらも通じて)一貫した流れとなっています。そして、この話の孟嘗君と魏冄とはこの世に戦乱を引き起こそうとしている側です。


 ・しかしそれにしても奇妙なのは、魏の宰相として秦に魏を攻めるようにさせて、そしてそれによって斉を攻め取り、その土地を魏冄にあげようというこの孟嘗君の考えです。魏としては自分が先頭に立って大国である魏を攻めるなどというのは損ではあっても得することがない、その上に土地まで魏冄にあげるのを約束するというのですから、何も得るところがありません。そこまでして呂礼を追い出したいのかと思えます。
 孟嘗君は魏にいるわけですから、この五年以内に孟嘗君は死にます。そうなると、別に斉での宰相復位を求めているわけでもない。この狙いがよくわからないのが不気味だなと思います。
 ただ、これによって魏と秦とは一応こういう話ができる関係なわけで、これが後々燕の楽毅の主導する連合軍へと繋がり、それで斉を襲うことを考えれば、確かにそういう意味での狙いのようなものはあったのかなと。「燕のような小国が斉を襲うなど不可能だ」というような話ですし、当時は誰もそんなことを信じることはなかったでしょうが、しかし確かにそちらに向けて情勢は動いていた。そういうことなのかなと思います。












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