新戦国策秦4ー1、昭襄王、甘茂が秦を追われた後の話






 ということで今回から昭襄王(しょうじょうおう)に入ります。この人長いだろうなと思ったら、なんと長すぎて上下に分かれていますね。さらに始皇帝をやったら秦はおしまいです。当分続きますね。


 甘茂(かんも、かんぼうとも)は秦を逃げ、斉に行こうとした。
 関所(特に函谷関)を出て、そこで蘇子(蘇代)に会った。
 そこで言った。
 「君はかの江上の乙女の話を知っているか」
 蘇子は言った。
 「聞いていない」
 「江上の乙女は家が貧しくて灯りすら持てなかった。そこで他の人々が共に語り合い、これを追い出そうとした。まさに追い出される時になってその乙女は他の乙女に言った。
 『この妾(実際に妾というよりは、自分のことを貶めて話している。卑称)は灯りを持ってないということで率先してやってきて部屋を掃除し席を用意していたものです。そうであるのに、あなた方は灯火の余った光が壁を照らすのをどうして惜しんだりするのでしょうか。たまたまその明かりが私の方に来たところで何があなた方の妨げとなるというのでしょう。この妾は自分でも(みんなにとって)益のあることをしていると思っています。それなのにどうして今回私を追い出されるのでしょう』
 そこにいた誰もがそれを話し合ってその通りだと思い、留めることとしたのです。


 今この臣は秦に追われてこうして関を出ました。
 できることなら貴公のために掃除をし席を用意してお待ちしたいのですが(先に斉に行ってというニュアンス)。私を放っておかないでください」
  蘇子は言った。
 「わかりました。貴公が斉で重んじられるように取り計らいましょう」


 そうして西へ行き、秦王に説いた。
 「甘茂は賢士です。かの者は秦にいることも幾代かになります。要塞や渓谷の様子から地形の険阻さなど、ことごとく知っております。かれがもし斉に行き韓・魏と盟約し秦を謀ることを考えたならば、これでは秦の利益には繋がりますまい」
 秦王は聞いた。
 「そうであればどのようにしたらいいだろうか」
 蘇代は言った。
 「手厚い贈り物をし俸禄を重くして迎える以上の手はありません。彼がきたならば国から終身出すことがないようにした方が良いでしょう。そうなれば天下の方ではもはや秦を謀ることができなくなります」
 「よし」

 秦王は甘茂に上卿の地位を出し、宰相位をもって迎えようとした。甘茂はこれを固辞して受けなかった。
 蘇代はそこで斉王に言った。
 「甘茂は賢人であります。今、秦が彼に上卿を与え、宰相位をもって迎えようとしていますが甘茂はその賜りものを恩に感じており、それゆえ秦王の臣であることを願っております。
 今、斉王はなにをもってこの者に礼を与えるのですか。王がもしもこの者を留めることがなければ、王のことを恩に感じることはないでしょう。甘茂の賢明さをもってあの強い秦に人まで用いさせたならば、甘茂を取り除くことは今後難しくなりましょう」
 斉王は「よし」といい、甘茂に上卿位を与え、斉に留めることとしたのである。


 ・あれだけ宜陽を落とすとか息壌(そくじょう)の誓いがどうとかという甘茂の活躍を見てきましたが、代が変わって昭襄王となり、秦を追放されたようです。
 これは秦においては決して珍しいことではなく、先代の武王になった時も王と折り合いの悪い張儀は秦を出て魏に行く流れとなりました。あれだけ恵王の時に楚を破る功績があって宰相やっていてもこうなったわけです。2-13ではそこらへんの話をやっていました。

 あるいは孝公の時には商鞅がもてはやされていましたが、恵王の代になると家臣が処罰されて恨みに思ってたので、商鞅は処刑されます。1-1ではそこらへんの話が取り上げられていました。

 つまり、代が変わるごとに秦では商鞅、張儀ときましたが次は甘茂が追放される流れとなったわけです。事情はわかりませんが、最大の功臣は新王とは相性が悪いのかなという感じでそこまで間違っていないように思います。

 ついでですが、これ戦国策4でその昔やったことがあります。


 ・少しリアリティがないように思うのは、乙女が「私がいることでみんな掃除や席の用意が減って得こそあるのに、何か損することがありますか?」と言っていることですね。いることで得をすることはあっても損をすることはない。それなのにあいつは貧しいからと灯火が漏れることでさえ惜しむ。
 しかし人はそういう損得勘定で得だから置いておこうとなることでさえ難しい生き物だと言えます。一歩先ではいやだからと追い出すが、二歩先では実はこの人が一生懸命やっていたんだと気づいて後悔する……そんなことでさえ難しいと言えます。二歩先でこりゃ後悔するなと算数して計算して答え合わせできるようなことでさえ人間には非常に難しい。その意味では甘茂の話はよくわかりますが、しかし少し現実離れしているのではないかなと思います。




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