新戦国策秦3-3、楚に土地をあげようとする張儀と、それを何としても食い止めようとする甘茂(かんも)の話






 ということで前回は張儀が樗里疾(ちょりしつ)を秦から追放させるというお話でした。こんなんやっててよく秦は強くなれたなというお話ですね。


 張儀は漢中(かんちゅう、地名)を楚に与えようとした。
 秦王に言った。
 「漢中を保とうとするのは、木の虫みたいなものであります(中から食い荒らす虫。ここでは国害と言いたい)。
 木を植えても場所が悪ければ人はこれを切ることとなりますし、家に不義の財があればそれによって結局は大きく損なわれる結果を招きます。
 今、漢中の南は楚にとっては近く、利益を与えるものであります(秦にとっては遠く管理しにくく害となる)」

 甘茂が秦王に言った。
 「土地が多い者というのはもとより憂いが多いものでしょうか。
 天下にもしも一朝有事があったならば、王は漢中を楚に与えましょう。それによって楚は必ずや天下に背いてでも秦の味方をすることでしょう。
 もしも今王が漢中を割いて楚に与えたならば、今後もし一朝有事があった際に、一体何をもって楚と話をすればよいのでしょうか」


 ・ここ最近、いかにも張儀が秦にとって悪い工作をしているような話が多くなってきました。実際のところは張儀は楚に恨みを持っているわけですし、それは藍田の戦い(らんでんのたたかい)という形で晴らしたわけです。例の「六百里与える」と言っておいて「いやあれは六里でしたよ」というやつですね。で激怒してやってきた楚を打ち破った戦いでした。その後、恵王は死去し、武王の時代になったわけですが。そうして弱体化した楚に対してなぜ漢中をあげようと思ったのか。恐らく楚王である懐王は秦に捕まっていて新しく頃襄王(けいじょうおう)が立っているのかなと思われます。その前後の時期でしょうね。


 恐らくはこれは「バランス感覚」みたいなものなのかなと思います。「狡兎死して走狗煮らる」じゃないですが、張儀は楚に確かに恨みをもっていたし、それは晴らされたわけですが、それとは別に楚が滅亡したりするとそれまで役に立ってきたヤツも用済みとなり、お払い箱となりかねない。それというののは張儀だけでなくたくさんの臣下にとってはそういう事情があったわけです。
 乱世で戦争があれば武勇を振るえる者にとっては出番が来たというものですが、そうなりすぎると文官の出番がなくなる。逆に平和であり文官がない政や外交と忙しくやっているのであれば、武官は腕を振るうことがなくなってお払い箱となる。この両者のバランス感覚というものがあってそれが張儀にこういう行動を取らせているのかな、と思います。といっても確たる証拠はないですが。


 ・甘茂(かんも)が張儀に半分賛同しているように見えて、実は「もしも天下に何かあったらね」という条件を付けることで実は強烈に反対しているというのがこのくだりかなと思います。まあ普通に考えて自分の所の土地をわざわざ敵にくれてやる道理はないわけですから、それは反対するよなという感じがします。
 ただその当然の道理、恐らく誰が考えても当然だろうという道理と、先に挙げたような「戦乱が続いてくれないと困る」という思惑とが共存しており、じゃあ敵に塩を送るじゃないですけど、それによって戦乱を引き延ばそうという思惑がある。こ
れは別にこの時代特有というわけではないわけです。


 ・なぜ秦のくだりで張儀がこうも槍玉として挙げられるのか。それは恐らく戦乱を引き延ばしたいとか、戦乱が続いてくれないと困るという一種異常な、しかしけっこう妥当な理屈があるわけで。人々がそれを強大な……口もうまく駆け引きも達者で地位も高い張儀という人に対してその概念の結実を見出しているのではないか。それが端的に見出されるのがこの話なのかなと思います。


 ・漢中っていわゆるあの長安の隣あたりのあれかなとも思ったんですが、そこを楚にあげるって考えると話がおかしくなるので、多分もっと別のところに同名の漢中というのがあったんだろうなと思います。それは調べても出てきませんでした。




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