ということで前回は、周最(しゅうしゅ)が韓と魏の宰相を兼ねることで秦・趙の同盟に対抗する、それどころか亀裂を入れると。そういう話でした。
ある人が周最(しゅうしゅ)のために魏王に言った。
「秦が、趙が斉と戦うことをはばかっていることを知るやいなや、斉・趙が同盟することを恐れて裏で必ずや趙を強くしようとします(つまり趙が強くなれば、強国である斉と同盟をする必要がなくなる)。
趙が敢えて斉と戦わないのは、秦が裏切って先に斉と同盟することを恐れていればこそです(そうなれば、趙は東西から挟撃されることとなる)。
秦と趙とがこうして斉を前にして争っておりますが、魏王のところに人がいなくてはこれに加わることは出来ません。王は周最を捨てることなく、力を合わせて斉と連絡を取るべきです(周最は斉に伝手がある)。こうして兵を集めておいて急襲すれば、斉を破ることは容易いということは言うまでもありますまい」
・このある人というのは斉と組むふりをしつついきなり斉を襲えと言っています。とんでもないというか、これ策でもなんでもない(笑)というより強国の斉をいきなり敵に回して諸国からの信用も失って一体どうするんだろうかと思ったりもしましたが、注によると、この最後の「斉を襲う」というのはあくまで魏王の心を動かすためのものであって、結論ではないと。なのでこの一文によって魏王の心を動かすのが趣旨であるということのようです。
ホンマかいなという話ですが(笑)
まあそっち方面で考えると、魏は周に比べると強国ではありますが、斉や秦、楚に比べると弱小国です。なので、「魏は弱くて当然」という前提があるのは想像に難くないと。そういう意味でプライドが常に削られているという状況はあると思います。それを思えば、「あの斉に一泡吹かせられる可能性がある」という表現を聞けば嬉しいというのは実際にあるのかなと。斉に比肩するとは言いませんが、まあそれだけの存在感を示せるというのは魏にとっては嬉しいものだと考えることは出来ると思います。そういうひねくれがあるということをその一文で示せる……実際に攻めようというのではなく、「あんたの魏がそれだけの存在感持てるんだよ」と言われることが嬉しい、というひねくれがあると。それを利用して、話に乗せる。そう思えばこの一文はけっこう深い意義のある一文だと思います。斉を破れるかもよ? というのはまあ寝言でしょうが(笑)、それでもそういうことを言えるというのが痛快で嬉しいというのは事情としてはあるのでしょう。
・つまりは、ボチボチ弱小の周と、その周囲にいる弱小の韓と魏がいかに存在感を増すかという話になっているように思えます。ただ韓と魏にとっては同盟を組むという選択肢もあるわけです。ところがそれができない。二国ともプライドが高く、「おまえんとこと一緒にするな」という気持ちがありますから、仲良く弱小国を続ける以外にありません。結局これは最後まで続き、秦に滅ぼされることとなります。
それだけでなく、例えば韓は秦に近いわけですから、「贈り物をしろ」と言われれば断ることもできません。結局秦に言われるがままとなり、属国と言ってもいいような状態が続きます。そして秦の手先となり、各国を率先して攻め、「韓は汚い国だ」とか「秦の犬め」というような印象を持たれている嫌われ者の国でもあります。そういう事情は魏にもありますから、当時魏も似たような印象をもたれていた節があるのでしょう。そういう印象を払拭したいというのもあるのかなと思います。
・まあこのある人はあくまで周よりで、周最を活躍させたい思いがあるのだと。
それを思えば、結局は周の思い通りに魏を動かしたいわけで。
その思惑が成功したか否かはわかりませんが、こういう言い方によって自国よりも大きい魏を動かそうとしたということが重要なのかなと思います。
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