新戦国策1-2、趙累(ちょうるい)が巧みに景翠(けいすい)を動かして宜陽落城後に漁夫の利を得させる話






 ということで、前回は顔率(がんそつ)がとんち話によって斉王に援軍を出させた挙句に九鼎(きゅうてい)は渡さないで済ませるという話でした。


 秦は韓の邑(ゆう、村)である宜陽(ぎよう)を攻めた。
 周君は趙累(ちょうるい)に言った。
 「そなたはどのように思うか」
 これに答えた。
 「宜陽は必ずや落ちることでしょう」
 周君は言った。
 「あの城は広大で、有能な兵卒十万、糧食は数年分はある。韓の相国である公仲(こうちゅう)の軍は二十万おり、楚将の景翠(けいすい)は楚の者どもを率いて国境の山に控えて救おうとしている。これでは秦も功を為すことはできないだろう」

 答えて言った。
 「秦の大将甘茂(かんぼ、かんもうとも)はよそから来た将軍です(代々秦に仕えている家柄ではないということ)。宜陽を攻めて功があればまさしく周公旦です(しゅうこうたん、かつて周にいた宰相であり、その人に匹敵するほどの厚遇を受けるということ)。しかし功がなければ名を削られることとなりましょう(追放されるということ)。
 秦王は群臣の話を聞かずに宜陽を攻めております。これで落とせなければ、秦王の恥となります。そういうわけでこの臣は落ちるだろうと思います」
 周君は言った。
 「もしもそなたが私のために考えたならば、どうするのだ(宜陽が落ちれば秦と周が近いのでこう聞いている)。」

 答えて言った。
 「わが君は景翠に言ってください。
 『貴公の爵位は執珪(しっけい、要するに最高位の爵位)であり、官位は柱国(ちゅうこく、要するに卿として最高位)です。戦って勝ってもこれ以上得るものもなく、勝てなければ誅殺されます。そういうわけで、秦軍が宜陽を落とした後に宜陽を助ける以上の手はないと思います。秦はその疲弊したところを襲撃されることを恐れるあまり、最大限に貴公のいいように動いてくれることでしょう。韓の相国である公仲も、貴公が秦の疲弊に乗ずるところに加わりたいことでしょうし、そのためならありたけの宝を出してくれることでしょう』と」

 秦は宜陽を落とした。
 そして景翠は兵を進めた。秦はこれを恐れて、煮棗(しゃそう)の邑を楚に引き渡し、韓の方では楚に大規模な謝礼を渡した。こうして景翠は城を秦から得て、宝を韓から得て、これを東周に感謝したのである。



 ・これどっかで見たような話だなーと思ってたら近いところ書いてました。
 戦国策41、甘茂が秦王と息壌(そくじょう)の誓いをする話
 この話は「息壌の誓い」という形で有名な逸話になったようで、散々甘茂がダメだと聞いた秦王が将軍を交代しようと甘茂を呼んだら、
 「息壌の誓いはまだありますぞ!」
 と言われて、慌てておうわしも覚えとるわいと言ったという話ですね。書いてる当時は「へー」くらいでしたが、調べてみるとけっこう有名な話だったようです。

 ついでにこちらのサイトに図式でわかりやすく書いてありますので併せて載せときます。


 ・なんといってもこの趙累(ちょうるい)という男の観察眼の鋭さが際立つ話だと言えるでしょう。
 秦が宜陽を落として周も危うくなる。
 そこで楚の景翠(けいすい)を動かすことで秦を圧迫する。
 景翠は城も宝も手に入れてウハウハになりますし、周は周で危険な秦が叩かれてくれてほっと一息できると。さらには力も得たその景翠に恩を売ることで次も作っている。
 現状を見て、そこでベストな解答を導き出す、そのために経路を巡らせるそれが非常に素晴らしいなと読んでいて思います。一言で言えば問題解決能力でしょうね。厄介な問題があり、その解答なんて千差万別ですけど、最もベストだろう答えを考えてをそれを空想で終わらせない。非常に具体的な形にして実現化してしまう。
 こういう話に触れていると、脳汁がドバドバと出ている感があって気持ちいいですね。


 三国志のゲームの話たびたび出して恐縮ですが、「政治力」ってなんだろうなと思ってたんですが、結局知力があってつまり頭が良くてもそれを実現化できるとは限らないし、むしろその最適解を出した後で誅殺される、なんて天才もけっこういたりするわけです。足元を救われる天才と言いますかね。呉起とかも改革して恨みを買って殺されて、で改革はパーになったりもしているわけです。それだとまさに「意味ないじゃん」って感じなんですけど、でも政治力ってのはそれを実現化するわけです。力関係とか、誰の力を借りたらいいかとか、具体的に自分の命も安全を保ったうえで(殺されたらパーになるし)、ではどうすればいいか。それを考えて、そして実現化していく。それを思えば、政治力ってのは「人間関係の上に展開される」ってのはほんの一部で、様々な事柄がこんがらがってある中で最適解と言える一本を見事に解きほぐしていく、恐らくは、そういう問題解決能力であり、つまりは空想を現実のものとしていく実現化能力の事なんじゃないかな、と思いました。


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