新戦国策2-12、蘇厲(それい)が周君に言って白起を追い込む話






 ということで前回は周足(しゅうそく)という周の宰相に誰か名前のよくわからない人がアドバイスをすると。そういう話でした。


 蘇秦の弟である蘇厲(それい)は周君に言った。
 「韓・魏を破り犀武(さいぶ)を殺し、趙を攻めて蘭・離石・祁(りん、りせき、き)を奪ったのは皆白起(はくき)のやったことです。やつは巧みに兵を用いましたし、また天命もありました。今魏の梁(りょう)を攻めていますが、梁は必ず敗れるでしょう。梁が落ちれば周が危うくなりましょう。主君は今それを止めようとするに越したことはありません。


 白起に言いましょう。
 『楚には養由基(ようゆうき)という者がいたのだが、この者は射が得意で、柳葉(りゅうよう)から百歩離れてはこれを射て、百発百中だったとのことだ。誰もがこれを見てうまいと言った。ある人がこの養由基の所に立ち寄って言ったのは、うまいですね、私にも教えてくださいと。
 養由基は言いました。誰もが皆私を名人だというのに、そなたは弓を教えろという。どうしてあなたは私に代わって射ようと思わないのだと。
 客は言いました。私は弓術の専門家ではないので、やれ左手を支えろ右手は曲げろというようなことは教えることができません。柳葉を射る者が百発百中であってもいい結果が出ても止めることがなく、しばらく経って気力は疲弊して弓はそるし矢は曲がるし、その結果たった一発当たらないだけで百発百中の名も消え失せることでしょう』と。


 今貴公は韓・魏を破り犀武を殺しました。さらには北の趙を攻めて蘭・離石・祁を奪ったのは貴公です。貴公の功績は甚だ多いと言えましょう。今貴公は秦兵を率いて国境を出て両周を過ぎ、韓を踏み越えて、梁の地を攻めておられます。ひとたび攻めて得ることができなければ、大功はことごとくなくなることでしょう。貴公は病と称して出仕しない方がいいですよと」


 ・柳葉(りゅうよう)って地名かなと思ってましたが、やなぎの葉っぱと考えてしっくり来たのでやなぎの葉で別にいいのかなと思います。

 ・この話非常に興味深い話ですね。
 というのは、この後実際に白起(はくき)は病気ということで出仕しなくなります。といってもこの伊闕の戦いから趙との長平の戦いまで30年くらいあるようですので、どのタイミングかはわかりませんが。そのどこかで出仕をやめると。そして趙を攻めろと命令を出されるのですが、白起は行かないといって秦王を怒らせ、秦王は別の将軍を出しますが白起の言った通りで失敗します。そしてどうしても出ない白起は秦王に自決を命じられ、自殺して果てることになります。名将にしては非常に寂しい最期だと言えます。

 どっかで書いたようなと思ったらありました。
 戦国策40、白起がどうしても趙を攻めない話


 ・話を照らし合わせていくと、蘇厲(それい)が周君に言ったというこの話はそこまで良く見通しているように思えるということです。周君はじゃあやってみようと実行し、白起はそれに従って出仕をやめる。
 白起は大活躍でも、秦の宰相である范雎(はんしょ)などは切れ者ではありましたが、白起の大活躍を恐れていた節があります。というよりそこまで快進撃を続けていてどうして宰相に抜擢されないだろうか、となるとまさに范雎の地位を奪いかねないほどの人物だったと言えます。范雎はそう思ってなかったとしても、状況は范雎を殺しかねない、となるといやでも范雎は白起を排除しないといけなくなる。こうなると命の危険があるのは白起の側だと言えます。
 蘇厲は別に范雎のことを具体的に示してはいないでしょうが、白起としてはそういう幾つもある身に迫る危険を考えることが必要だったに違いありません。一つの失敗で失脚し、粛清されるようなことになりかねない。そうなると、百戦百勝の状態で引退するということが白起としてはまさに妥当というのはあるでしょうから、蘇厲の指摘というのは全く正しい。
 表向きには、です。
 というのは、白起は「名将」とか「神懸かっている」というイメージで語られていますが、実際には勝機というのをよくわかっており、それを口に出してきちんと説明することのできるこの時代には結構数少ない人、理路整然としゃべれる人だったんじゃないかなと思います。この時代にしてはかなり珍しいことだと思うんですよね。別に遊説家(ゆうぜいか)でもないのに、一将軍がそういうことをきちんと説明できるというのは。そして説明を受けている范雎の方が「白起将軍は神懸かっている」というようなイメージ先行で語っていて、恥ずかしくなって帰ってしまうほどだったと。
 そういう人がそうやすやすと蘇厲の企みに落ちるかなと。どうもそこに違和感があるんですよね。まあ、この話を読めば蘇厲の言った通りだし、蘇厲の狙った通りに事態は推移しますし、その結果白起は自刃する以外の道がなくなったってのはその通りに見えるわけですが。


 ですから、この話だけを見ると「蘇厲ってすげえ」と見えますし、その言葉というのは表向きのもので、実際にはその後のことまできちんと予測しているんだなというのが分かるには分かるわけですが。でもそんないすっぽりと白起がハマるってのも違和感があるんだよなって話です。まあ直言して秦王を怒らせたりもしているようだし、そういう政治能力とか配慮の苦手な、あまり得意でない白起にとってはまさに蘇厲によって追い込まれたよね、という見方もできるのかもしれません。


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