新戦国策2-3、布が周君に直言する話






 続きですね。楚では司馬翦(しばせん)、斉では司馬悍(しばかん)って話でしたが。この話は特に前回の斉の話を強く受けます。周最(しゅうしゅ)という人を周の後継ぎとして支援しましょうって言ったら、左尚(さしょう)って人がいやいや初めから一人には絞らない方がいいよと。たくさんの可能性の中から誰なのか私に教えてくださいと言って話を進めろというものでした。



 司寇である布(しこう、刑法を司る役人をしていた布(ふ)という者)は周の庶子である周最(しゅうしゅ)のために周君に言った。
 「わが君は、周最自らが太子となることを承知せぬまま、斉王に次の太子であると告げさせました。
 この臣はわが君のためにそれは良くない、と申し上げます。

 かつて、函冶氏(かんやし、剣を司る者、恐らくは鍛冶屋という意味か? 注にはそもそもの生業は鎧の鋳造とある)が斉の大公のために良剣を買ったそうですが、大公はこの剣がいい剣であることを知らずに剣を返してその代金を求めたのだそうです。その後、越の国の人がこれを千金で買いましょうと言ったそうですが、それでは損をすると言って売らなかったそうです。
 その後函冶氏は死ぬ前にその子に、
 『己一人だけがこの剣の良さを知るということがないようにせよ(その良さを広く知らしめよ)』
 と言ったのだそうです。

 今、わが君が周最を太子としようとお考えであることは、わが君一人だけがそれを心の中で良しとするものです。天下にはこれをそのまま信じる者はおりません。私が恐れているのは以下の事態です。斉王が、周君が実は公子果(か)を後継ぎとしようとしていた、としてこれを周最に譲らせて、斉に周最を行かせる、ともっていくことで、わが君は企み事の多い人だとなり、周最はウソの多い人だとみなされることを私は恐れております。
 わが君はどうして人々の信じるところの貨幣を買わないのですか。周最に与えるものを惜しむことなく、天下に広く知らしめましょう」と言った。


 ・この話中にある函冶氏(かんやし)の話が肝ですね。
 鍛冶屋として名剣を恐らくは作ったのでしょう。でも斉王にはその価値が分からず、越の人は千金(要するに大金)出すと言ったが、それでは損になるとして請け合わなかった。そして函冶氏は本文の言葉を借りますと、獨知の契(どくちのけい、獨は独の旧字体)に陥ったと。つまり、自分一人だけがその価値を知って満足するようなこと、そういうことがないようにせよと。それを子孫に言い残したということですから、まあ後悔したのでしょう。

 で、この話を引き合いに出したということは、この臣下の夫(ふ)という者は周君も「獨知の契」じゃないのか? と言っているわけです。斉王から「あんたんとこの太子死んだけど、次の太子は周最(しゅうしゅ)なの?」と聞かれたら、「そうだ」と言ってはいますが、それは別に当人である周最は断定していないと。周最が次の太子であるということは周君一人だけがそうだと言っているだけで、他に断定する材料がない状況です。
 こうなると、行間に付け込む材料がいろいろと増えてくることになります。
 斉王がいろいろと考えて、
 「でも太子とするなら本人もそうですと普通言うよなあ?」
 と思うと。で、
 「そうか、なるほど。
 周君は実は別の公子である果(か)を太子にするつもりだろう、周最が自分は太子ですというのにそうですと言わぬままに人をやって知らせてきた。つまりここで周君は工作を弄したのだと。
 しかし本当は果を立てたいので、強引に太子の地位を周最から果へと与えて、そのまま周最を斉へと追い出すつもりだろう。そうなることを知っておりながら、はいともいいえとも何とも言わない、なんとまあ周最は腹に一物持った男だろう」 


 と、斉王がこのような考えをすることを布は恐れています。単なる世継ぎ問題(……ということも難しいわけですが。古代中国ではこの手のお世継ぎ問題が一番難しく、現に劉表、孫権、袁紹などの大豪族と言っていい勢力がこの手のヤツをやって分裂を招き、国を亡ぼす、あるいは衰退させる例は枚挙に暇なしといえます)なんですが、これを契機に他国からはイメージダウン戦略をやってつけ入る隙を与えることになりかねないと。
 「あの周君は周最様をお世継ぎにと見せかけて、実はこんなこと考えているらしいぞ」となればイメージダウン間違いなしです。周最だってその流れを食うことは間違いありません。そういう「つけ入る余地」とでもいうべきものを憂慮し、また危惧しているのがこの話の布という人物だといっていいでしょう。考えすぎでは? と思える節もないではないですが、そのくらい曖昧にしているということは危険であるということなのでしょう。きちんと断定するべきところは断定すると言うのがいかに大切かということですね。行間を読む、その読まれるだけの隙があるということが窮地に陥らせる可能性があると。


 ・この周の太子である共太子という人が死んで、楚では公子咎(きゅう)を封じるよう働きかけようと。かと思えば斉では公子周最を封じようと言う流れが起きてきています。つまり自国の息のかかった公子を太子とすることで、その太子が後継ぎとなった時に自分の国の好きなようにもっていけると。恩を売っているわけですから。そういうわけで苛烈な運動が水面下で行われているわけですが、周の方ではどうも煮え切らないようです。これは優柔不断というよりは、周君の方ではそうするつもりではあっても、周最の方でははっきりとそう言っているわけではないと。つまり一枚岩であるとは言い難い。こういう足並みの乱れが良くないということでもありそうです。




















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