「響」って作品をみながら考えた2
あんまり「オススメ」カテゴリを延々書いて圧迫するのもどうかと思うので、オススメの話を書いて終わりとしたい。というか昨日内容について全然書いてなかった。
特に個人的におもしろかったのが20~22話あたりの桔梗先生のくだりだった。
「ゴリラ」とか「バケモノ」と噂されるほど桔梗先生は見た目がキレイではない。その噂を聞いて表情を曇らせるくらいに気にしているが、しかしその気持ちを瞬時に忘れることができるくらいにその感情と一体化している。そうして響とクレープ屋の前で会うのだが、誰もが自分に対してマイナスなインパクトを持つものだと思っていただけに、響が初対面の時にそうではなかったということに少しだけ喜びを感じる。小節の内容はともかく、外見を見てがっかりさせたものだとばかり思った桔梗は言う。
桔梗「がっかりさせちゃったね」
響「え?」
桔梗「え?」
響が桔梗の外見について全く何も考えていないらしいことが桔梗には意外だった。そして、純粋に自分の好きな小説を書いた人だという気持ちから響は握手を求める。こうして桔梗は響に全く悪印象を持つことがない。
響の友達のリカの名前が出た時に桔梗は顔を曇らせる。自分のことを嫌いだというリカをだからこそあの子が大好きなんだと桔梗は言う。父親をあの女に取られるんじゃないかと思っているからだと。つまり自分を女だとみなしているからだと。でもその言葉をそのまま受け取ることはできない。リカの桔梗への言葉は残酷に桔梗の心を傷つける。それが演技であり、求められている役割を果たしているだけであったとしても、そして桔梗の心に溜まった膿を出してやる働きがあったとしても、それは桔梗には苦しい。
「穴場のパンケーキ屋連れてってあげる」
桔梗は力任せに男を別のところへと連れて行く。それっていうのはナンパしてくる男に対するリカの辛辣な対応とセットになっている。桔梗は自分を犠牲にして、感情を抑えつけて、嫌われ役を買って出る。そして知人のいるところでは見せなかった怒りの表情を見せつける。男は恐れをなして立ち去る。
「可愛い!
お姫様みたいよ!」
桔梗は響を褒めるが、響は返す。
「私、バカにされてる?」
これをこう聞き返すということは、響の中で漠然と「ゴリラ」とか「バケモノ」というマイナスな言葉を桔梗がプラスに裏返して言っている感じがあったのだろう。実際桔梗はそこをうまくやり過ごす能力に長けている。「マイナスをプラスに変えて生きる」というと聞こえは良いが、マイナスを養分に食らってプラスに変えて出てくるものっていうものでマイナスの影を全くひきずっていないことなんていうことが果たしてあるものだろうか。響はその桔梗の影というものを感じ取り始めている。
「私みたいな……バケモノを……」
他人の眼は他人の眼ではあるが、でも桔梗の眼はしっかりとその他人の眼と一体化してしまっている。「自分は自分、他人は他人」などというものではない。それを受け入れる、受け入れて、弁えて生きるということが桔梗を本当に苦しめているものではなかったか。
それでも桔梗は一つの幸せを掴んだ。自分の最も望んだ形ではなかったろうが、しかしそれがどれだけ幸福なことか。望んだ道ではなかったとしても、その道で頂点まで登ったということが桔梗に安らぎをもたらす。そうであるといえるということがぽっかりと空いた穴にすっぽりと埋まって満足と充実感をもたらしている。
でもそれっていうのはやはりどうしても偽物で、それに対する怒りや憎しみというものを桔梗は隠しきることができない。人ができているし、巧妙に隠してしまえるんだけど、時折出てくるその凄まじいエネルギーを響は感じ取る。
「もしも来世があるとしたら、私のところへ嫁に来てほしい」
多分この言葉っていうのが、響が作中で唯一口にした優しさなんじゃないかと思う。桔梗の心がズタズタで、ボロボロであることはわかっても、でも響にはどうしようもない。でもそれでも何とかしたいと思った時に、人ってこういう言葉にすがるしかないんじゃないだろうかなと。言葉なんて無力で何もできない。根本的な解決の役には何一つ立てない。それでもなんとかしたい、絆創膏貼ってやりてえんだよって気持ちがあるっていうこと、その気持ちが人の心に安らぎをもたらすものなのかなと。その意味での正解を響は確かに模索している。
とまあ長々書いたが、その他のところはおもしろかったけどウシジマくん亜種みている感じだったので、その他は割愛する。
・個人的に、あーもうムリだ溺れるってところで引き返すところがあったのでそういうところを突っ切っていく強さみたいなものを主人公の響なんかの登場人物たちから感じとったのが収穫だった。感想文。
この記事へのコメント
y=k
気力いっぱいの時しか「こころ」なんて読んじゃダメですよ〜
鬱とか気をつけてくださいね、なんとなく寂寥感漂う、きんたさんの文章自体は好きですけど。
きんた
気力はいっぱいだったはずなんですが、気付けば気力すっからかんになってました笑(^^;)精神ほぼ持ってかれますね。しかしまあこころってこうじゃないか?という手応えは掴めそうな気がしたんで、まあ気が向いたらまたやろうかなと思ってます笑一年後くらいに笑(^^;)
> y=kさん
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> お久しぶりです〜ちょっとコロナ関連でバタバタしておりました。
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> 気力いっぱいの時しか「こころ」なんて読んじゃダメですよ〜
>
> 鬱とか気をつけてくださいね、なんとなく寂寥感漂う、きんたさんの文章自体は好きですけど。