「こころ」/夏目漱石についての読書感想文その1(叔父と先生との一体化)






 ということで成り行きで「こころ」についてある方が書いた文章を読むことになり、じゃあその前に改めて読んでみるかと開いてみたのだが。これが改めて考えてみると高校以来だから20年近く放置していたことになる。手元にあったのに全く読んでいなかった。これってのは非常に怖いことで、「こころ」とくれば「あれか」と思うわけだけどそれがその「こころ」と全然一致してないどころか本編読めばわかるじゃんという話が完全に放置されていて、それを放置したまま「こころ」について考えていた節があると。これは非常に怖いことだなと思った。今となってはわかることだが、「あああれか」として思う「こころ」と「こころ」本編とは全くの別物だった。何事も原典に当たらないとダメだなと思って背筋を寒くしたという話である。


 ・余裕のある方は先に「こころ」を一回パラパラと読んだ方がいいのではと思います。


 ・で、じゃあ読んで何を思ったかといえば、この「こころ」に描かれている形式……登場人物の心理というよりその構造であり形式というものが、非常に我々に近しいものを描き出しているということが非常に興味深かった。我々の例えば「悩み」ってのはかなりこの構造に沿ってできあがっている。まるでその形式に沿いたいかのように、我々は悩むし、悩みを膨らませているといっても過言ではない。その意味で、これは小説というよりは我々の「こころ」のあり様の解体書だといっていい。そもそもこの表題がなぜ「こころ」なのか? という疑問がそもそもあったのだが、そりゃあそうだというしっかりとした手ごたえがあったし、その関連性というのはもっと具体的な形で突き詰められていい性質のものだと思った……というよりこの「こころ」の表題がなぜ「こころ」なのかという疑問とその解答は既にどこかで探求され提示されていても然るべきものだと思う。特に日本文学を専攻していれば、あるいは文学を志すならば、当然通るべきステップのような気もする。それが突き詰められていないとすればけっこう危うい話な気がする。なので「こころ」の評論探してみようかなと思った。


 ・読んでみれば一目瞭然なんだけど、「叔父」と先生との確執というのはとてつもなく根深いものがある。この話というのはどこかに誤解だったりとかすれ違いとか、先生の一方的な思い込み、みたいな形で情状酌量する要素は微塵もないように書かれている。当時まだ若くて人を疑うことをしらず、叔父に一方的にいいようにされたこの先生なのだが、しかしこの「こころ」とはじゃあどういう話であるかと言えばその叔父との関係で苦い経験をしたというこの先生がそれをラーニングしてKにしかけるという部分がどうしても中心になると思う。
 先生は叔父との関係で散々苦い経験をしたのだが、でも同時にそれがいかに効果的であるかということをそれは知ったということでもある。何も知らないヤツに一方的に勝手知ったるヤツがやる、ということがいかに効果的なのか。人という生き物が社会的な生き物であり、良くも悪くも学び続ける生き物であるということ、それが憎い相手であっても人は学んでしまえるということ。そして先生はお嬢さんを手に入れるために(ネタバレすみません(笑)というかみんな読んだものとして書いた方がいいか。というかそういうことを考えていては書くものも書けないか。ということでそういう配慮は無視して書くことにする(笑))先生はKに抜け駆けして「お嬢さんをぼくにください」と言ってしまう。Kがいかに深く悩み苦しむかという手を打ちつつ、その間に抜け駆けしてしまう。全てを知っているのは自分だけ……それがいかに汚いことかを知っているが、しかしそうでもしないとお嬢さんをKに奪われかねない……
 その境地で、先生はあの憎く汚い叔父のやり口を行うことで、汚らしい叔父そのものと重なってしまう。そしてやはりそれは効果的なのだ。お嬢さんとの結婚は決まり、Kは断念する。さらには自殺までする。どれだけ効果的か。そしてそれは、一体どれだけ醜いことであるか。叔父にやり込められても、まだ自分には正義はあった。あいつは汚いヤツだと言えるだけの矜持があった。ところがその叔父と一体化してしまった自分から剥奪されたのはその矜持だった……
 これっていうのは「クレーヴの奥方」でかつて私が書いた卒論の内容と本当にそっくりなんだけど(というか書いてて驚くほどに全く同じことを言ってる)。クレーヴの奥方は、自分の目指すべき望むべき像があった、そして最も忌むべき像があったわけで、クレーヴの奥方はその像を意識して動いていると。ところが先生は図らずもその自分の最も忌むべき像との一体化を果たしてしまった。これによる破滅というのがつまり「こころ」の破滅であり、自殺に繋がるのではと思う。


 まあまた続き書きます。















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