恣意的な結論






 「教育は一種の洗脳」とはいうもののふと大学の講義中の話を思い出す。
 その先生というのは化学の先生であり、けっこう年配の人でまず世間話から講義に入るのがクセというような人だった。
 「大卒かつストレートであれば一生涯で稼げるのは大体三億です」
 その人はそういってその日も世間話をしていた。
 これってのはあくまで一般論であり、一般論でしかなく、かなりこの世界を大雑把に切り取ったものでしかなかった。そもそもそんな枠が示されることに果たしてどのような意味が? いや、恐らくは漠然とした未来をこういう形であっても切り取って示せることを素晴らしいと賞賛すべきであり、そんなこと知ったこっちゃないと講義だけ進める先生の方が無責任だと言うべきだったろう。
 しかしこういうコロナ禍などの不測の事態のことを果たしてどこまで意識できていたか?
 そしてそもそも「三億」という示された上限が果たしてどこまでそれ以上もあるよという可能性、その余地を残していたろうか? 恐らくはそこには「せいぜい三億が上限である」というニュアンスがあったのは間違いないし、そこに妥当性はかなりあるとしても、それというのはかなり限られた条件内の話でしかなかった。


 ・最近経済の勉強をして、経済的な見方をできる限り身につけようとしてきたところがあるので、アメリカで豪邸を大量に買うという話を聞いていて思ったのは、これは要するに土地転がしだってことだ。……土地転がし? 日本で遠い昔に捨て去られたようなおとぎ話だ。それこそ40年前の日本はとうにその段階を卒業していたはずだし「あんなことやったって痛い目見るだけだよ」というようなものだろう。それがまさか今の時代に土地転がしだとは?
 その話を聞いた時、昔封印された魔物が急に現代になって復活しました、というニュースを不意に聞いたような気持になった。そんな馬鹿な? しかしよくよく聞いてみるとそこには確かに妥当性があったのだ。そもそも土地転がしが「バカらしい」というような価値観がある、それこそがまさに日本の現状そのものを表しており、同時にアメリカの現状そのものを明らかにしているといえるものだった。アメリカではそちらの方が妥当であったのだ。
 つまりこれは何を意味しているのか。空前の好景気だということだ。まるで日本の景気を吸って成り立っているかのような好景気。そしてヒエラルキーの上層を占めるのはアメリカであり、その上層を食われた形で成り立っているのが日本だと。初めてその図式がはっきりとした形で浮かび上がってきた。「特権階級」といわれているのは意外とそうではない、アメリカのそれに金魚の糞みたいにくっついているに過ぎないものであるのだ。そして自分たちが少しでもそちらに近づくためにはその下層のことなど搾り取るための対象でしかない。我々はそうしてできた搾りカスでしかない。……そうしてなりたっているのがこの日本というものの姿だったわけだ。


 そうなると「アメリカ」という「方舟」……いやそれは実際にはそうではない、日本という特殊な状況を背景に推進剤として産みだされたかなり特殊な形態であるわけだけど、だから救済のための方舟ではなく押しつぶすが故の方舟だったわけだけど、その図式を成り立たせるために日本人というのはどうしても犠牲とならなくてはならなかった。恐らく政治家というのはこのことを大なり小なり、いやもっと詳しい事情まで知り抜いているに違いない。そうすると日本での「普通」の意識や意味というのが大きく違ってくることになる。その普通というのは明らかに大きく恣意的な形で歪まされている。恐らくはこのこととこの50年間人口を限りなく減らし続けると言う「不自然」、このことはどこかで結びついてくるに違いない。


 まあそれはいいとして、冒頭に戻るが重要なのは「一生涯で3億円」というこのことなのだ。
 「え? それって40年とかかかるよね。しかも最初は月給20万未満とかだし。でもそれって年収3000万でいければ10年で三億じゃね?」重要なのはこの方向性であり、そうした方向性を我々は明らかに摘み取られている。それを基礎において、じゃあ当然のようにそれを前提にして当然のように推し進めていこうよ、という方向性がここで言いたい結論になる。
 どうしてオレたちはその方向性が摘み取られているの、と。






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