菜根譚67、衝撃と平静(呂雉と戚夫人)






 「暑さや涼しさを感じるのは、富んだものの方が貧しいものよりもいっそう甚だしい。
 妬む心というのは、身内間の方が他人よりもきついものがある。
 このような事態に対して冷静な心で当たり、平常の心持で行わなくては、煩悩の苦しみの中に落ち込まない者は少ないと言える」


 ・先日挙げたのは李斯が一族皆殺しの危機に際して趙高の悪だくみに加担するという話でした。いくら李斯が賢いとはいえ、自分とその家族が皆殺しに遭うとかそういう事態をいかに避けるかと思えば、蒙括(もうかつ)将軍と始皇帝の長男扶蘇(ふそ)に代わりに死んでもらおうと。そこまでは良かったのですが、始皇帝の遺書を偽造した悪事に加担したのが趙高と李斯だったということで、趙高からすれば李斯には生きていてもらっては困るという事態が発生し、結局李斯も一族皆殺しとなりました。
 いくら賢いとはいえ、自分に矛先が向いて動揺しない例は少ない。李斯もその例外ではなかった、そしてその次のターゲットが自分となることを考えられないほどに余裕がなかったと言えると思います。


 ・他の例もあります。
 さらに時代は下って、劉邦が死ぬ前に後継者問題が起こりました。
 これによって正妻である呂雉(りょち)のいる呂氏と、劉邦の愛妻であった戚(せき)夫人のいる戚氏が対立しました。
 とはいえ呂一族の方に比べれば、愛妻であるとはいえ新参者である戚夫人の方は肩身が狭く、グループも大きくありません。
 さらには後継者はいろいろな働きかけがあって、 劉邦と呂雉との息子と決まり、次代は恵帝ということになりました。


 ・そこから呂雉の戚夫人への仕返しが始まります。
 よくも新参者のくせにこの私を散々脅かしやがったなと。
 劉邦が死に、宮廷内で最高の権力者となった呂雉を止める者は誰もいませんでした。
 こうして有名な「人豚事件」が起こることになりますが、それはこちらの戚夫人のリンクに貼っておきます。


 恵帝は母親によってそれを見せられ、あまりの絶望とショックを受けて、酒に逃げます。そして酒におぼれ、早死にをすることとなります。まさか母にそういう一面があろうとは、そしてこんなことが許されていいものかと現実を受け入れられなくなります。
 そして葬式となりますが、呂雉は泣き声は出しますが涙を流しません。
 それを見破ったのが張良の息子(張辟彊、ちょうへききょう)でしたが、呂一族で高位に就いているものがいないために今後が不安なのだと。呂一族をもっと高位に就けるよう勧めたらどうですかと陳平に進言します。そのとおりにしてやると、呂雉は初めて息子の死に対して悲しみを感じ涙を流したということです。
 今後の恐怖と不安が高まると安心しておちおち涙も流せないと。



 ・しかし富んだ者の方がこうしたショックに敏感であるというのはどういうことなのか。
 まるでドミノを縦に積んで高さを出していくと、意外と揺れを吸収してぐらぐら揺れはしますが意外と持ちこたえる現象とよく似ている。でもそういうショックがあるというのは別に本来は富んだ者も貧しい者もそこまで変わらないのではないかと思います。問題は圧倒的な力と自由があるがためにこの呂雉のようにしたいようにできる、別に我慢することもなければ自分の思ったように自由にできるということが大きいのではないかと。
 より自由にできるということが不自由さを感じさせる。もともと不自由でそこまで選択肢がないのであればそこまで迷うこともない。これというのは宝くじの高額当選で急に巨額の金を手にし、一気に自由になった人が大体破綻するのとよく似ていると思います。


 まあこの冒頭の文章のように常に「冷静で平常の心持ち」というのを保てれば別に問題はないのでしょうが、なかなかそうはいかない。ただ人が受けるショックというのは思ったよりもどうやら大きいらしいこと、そして自由にできる人の方が不自由な人よりもそこで感じる衝撃は大きいように思えるようだ、ということだけ指摘してここで終わりにしようと思います。









この記事へのコメント

にほんブログ村 ゲームブログ ゲーム評論・レビューへ
にほんブログ村

パソコンランキング