air7話-3、家に戻ってきた往人
「もうバスはないのか……」
神尾の家を出てきた往人だったが、もうバスはない。
バス停で一晩待つしかないようだ。
観鈴の最後の様子を思い出す。
「往人さん……!」
振り返る。
立ち上がれなかった観鈴が玄関まで出てきている。
「あのね、今朝の夢。
私ひとりぼっちで閉じ込められてた。
寂しかった!
誰かが連れ出してくれるのをずっと待ってた!
私、私ね、一緒に行きたい!
往人さんと、ついて行ったらダメかな……」
「俺はこの家から出ていきたいわけじゃない。
お前から離れなくちゃいけないんだ。
俺がいなくなりさえすれば、お前は治るはずなんだ。
だから、俺はお前のそばにいられないんだよ」
「そっか……そうだよね。
ごめんね。
またバカなこと言って……」
「いや……」
「じゃあ……バイバイ……
元気でね」
手を振る観鈴。
「お前……がんばれよな。
一人でも……がんばれよな」
「うん……一人でもがんばる。
私、強い子」
「よし……じゃあな」
観鈴はVサインをするが、往人は気づきもしない。
そのまま出てゆく。
自分の中にある割り切れないもの、後ろめたさ、そういうものを感じているのだろうか。
とにかく頭がいっぱいで余裕がない。
あるいは次またあの痛みが来たら、一刻も早く離れなくてはという思いがあるのかもしれない。
とにかく出てきてしまった。
バス停へ。
「観鈴……」
観鈴のことを考えながら眠りに落ちる。
夢を見る。
桜が散り始める季節。
猛獣と、王子様の対決。
でも王子は剣を振り回してばかりで一向に近づきもしない。
母がギターを弾いている。その横にいる往人。
考えてみれば往人はこの立ち位置が多い。主体的に何かをやるというよりは、横から見ていてアドバイスをするのが得意という感じ。
しびれを切らしたお姫さまが王子を押す。
王子は押された勢いで猛獣のところに飛びかかっている。
そのままもみ合っているうちに土俵から落っこちてしまう。
子どもたちの笑い声が響き渡る。
見ている誰もが笑顔。
その笑顔を見ている往人。
その後。
母親の特訓。
人形は動かない。
「今、往人どう思ってる?
見る人に笑ってほしいと思ってる?」
往人の後ろには、もたれかかった刀。
この頃の往人には人形よりも刀の方が興味があったらしい。
「そうじゃないと動かないよ?
動かしたい思いだけじゃなくて、その先の願いに触れて人形は動くんだから……」
ふと起き上がる人形。
驚く往人。
動いたよと言いたげに母を見上げる
「うまくできたね……!」
・母が言いたかったことは人形の動かし方だけじゃなく、思いがあって事態が動いていると言いたかったように思われる。
観鈴のためにケーキを持ってきた敬介。
佳乃の「魔法の」バンダナ。
ひとりぼっちのみなぎをみかねて、本当はいないはずなのに降りてきたみちる。
動かしたい思いだけじゃなく、その先の願いに触れて事態は動き始めるのだと。
母の本当の意図はそこにあった。
なのに、これから恐らく10年前後経過しているのに、しかし往人の芸はここから上達していない。
いや、この時の感動をゴールにしてしまったのか。
母はこれはスタートだと言った。
でも往人はこれはゴールだと思ってしまった。
この時の感動と喜びが終点を意味してしまった。
・何度か繰り返してきた海の場面。
夕焼け。
「海に行きたいってその子は言ったの。
だけど連れていってあげられなかった……」
かざぐるまを手にした往人。
この頃は侍→刀から忍者→かざぐるまに興味があったのかもしれない。
「往人、今度こそあなたが救ってほしいの」
人形を差し出す母。
「この人形の中にはね、叶わなかった願いが込められているの。
私のお母さんも、お母さんのお母さんも、衰えてしまう前にこの人形に力を封じ込めてきた。
いつか誰かが願いを解き放つ時のために……」
回るかざぐるまの上を器用に歩いてみせる人形。
「だから、私も願いの一つになる。
これをどう使うかはあなたの自由。
空に住む女の子のことは、忘れてしまってもいい……」
走り去るバス。
そのバスを見送る往人。
一番最初にこの町にやってきた時の風景。
それと観鈴。
「でもね往人。
どこかの町で、あなたはきっと女の子に出会う。
その子をどうしても助けてあげたいと思ったら、人形に心を込めなさい。
私はあなたと共にあるから……」
光と共に母は消えた。
死んだのでもなく、生きているわけでもない。
文字通り思いの一つとなった。
取り残される往人。あたりを見渡して母を探すが、見つからない。
「人形に……思いを込める……?」
・起きてみると、子供たちがいたずらしている。
その子たちに頼み込んで、おもしろい芸を考えてもらう。
こうして起き上がることと歩くことしかできなかった人形に初めて芸が加わることになる。
お話っぽくする、ダンス、ジュースでお手玉。
気位が高く、人に頼むことなどできなかった往人が初めて人に教えを乞うことになった。
あれだけ「これじゃ無理だ」「オチないんか」と言われてもめげずに自分のやり方を貫いてきた往人が。
初めてこれじゃダメだと気づいて、人に頭を下げて教えてもらうことになった。
そして夜。
観鈴のところへ戻る。
「観鈴。
帰ってきたぞ。
もうどこへも行かない。
お前と一緒にいて、お前を笑わせ続ける……」
「往人さん……」
「コツを掴んだんだ。
絶対におもしろいからな。
だからよーく見てろよ」
容体が思わしくない観鈴。
「観鈴!」
芸が止まる。
生気の抜ける人形。落ちてくるジュース。
「観鈴!
見てくれよ、笑ってくれよ!」
手を握る往人。
泣き崩れる。
「……どうして今まで気づかなかったんだ。
俺はお前のそばにいて、お前が笑うのを見ていればそれで幸せだったんだ。
そうしていれば俺は幸せだったんだ……
もうどこへも行かない!
俺のそばで笑ってろ!
なあ……観鈴……」
光り始める人形。
母の声。
「往人!
今こそ思い出しなさい。
あなたのすべきことを……」
幼き日の往人が人形を投げる。
キャッチする往人。
「俺は……
俺は観鈴のそばにいたい。
できればもう一度、会った時からやり直したい。
そうしたら今度こそ……
ずっと……観鈴と……」
目を覚ます観鈴。
「……どうしてだろう。もう起きられないって思ってたのに。
往人さん?
どこ行っちゃったの?
戻ってきてくれたんだよね?
私また元気になったよ。
まだ頑張れそうだよ。
ね、往人さん……?」
・これが意味するのは、往人もまた叶えられなかった願いの一つになったということではと。
母も、その母の母もそうして願いを込めてきた。その願いの一つになったということではないか。
だからこそそうして母と同じように消えたということも考えられるが、でもそうなると誰にその願いを託したのかということになる。
往人の願いを観鈴に託したのか、となると話が変になる。
母は往人に託した。それはその願いを発揮できる可能性があるのが往人だったからであって。そうして脈々と続いてきた流れはある。
でもそれを観鈴へ、となると話がおかしい。
そこに人形だけでもあればいつか願いが発揮される日が来るという可能性も全くないことはないのかもしれないが。
・もう一つの可能性としては願いが叶えられたということではと。
往人は出会った日からやり直したいと願った。
その願いが込められた力によって叶って、往人はその出会った日に戻った。
だから実質的にこの世界から往人は消えた。
だからこそ距離が近づきすぎていた往人が消えたことによって観鈴は元に戻ることができた。
観鈴は救われ、往人は願いが叶った。
それは結果的には最高の結果であり。
もうそれ以上望みようがないほど最高の結果を望んだとすれば、その形は叶えられたということでは。
・ということで過去編に戻ることになるわけだが。
この7話末~9話末までの過去編を見れば大体のことはわかるようになると思います。
でもそれはホントによくわかるんだけど。
わかった→今までのことにこの過去編を当てはめていけば「ほぼ」この話は辻褄が合うことになるとは思うんですけど、でもそれは別に評論とか分析じゃなくてただ「当てはめていっている」だけなんですよね。キレイにすっぽりとはまれば「ほら当てはまった!」というだけ、となるとairというこの話自体が「過去のことをうまく当てはめていくだけの物語」となって、そもそも見る価値がなくなるしそもそも7話末~9話だけ先に見たらいいじゃんとなりかねない。
まあ私はもう先にざっと見たんですけど(笑)、そうなるとそもそもこうして書いていくことが不毛というか無意味となるんですよね。だって90%以上はその当てはめ方式でうまくいくんだから、その残り10%、当てはまらないものをどうやって処理していくか、どう考えていくかということが重要だと思ってますし、ある意味ではそっちの10%を見ていけば残りの90%は勝手にはまっていくだろうからいらないかと思ってます(笑)当てはめるだけの仕事ですから。
というよりただの作業ですよね。パズルで言えば同じ形のピースを探していけば終わるということになりますから。
ということで過去の物語はいったん全部無視しまして(笑)
次回は9話末からということでやっていこうと思いますのでよろしくお願いします(笑)
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