行ってみると観鈴が倒れている。
観鈴と往人の二人。
しばらく佳乃やみなぎの話だったので、往人はダシでしかなかった感があるが久しぶりにメインキャラをやっている印象。
メインキャラをやってる往人は気位は高くズケズケとした物言いをし、そして主体的に生き、けっこう外してる印象。特に晴子との関係においては誤解とすれ違いが多い気がする。
「はっきり言ってお前には日記を書く才能がない」
こういう歯に衣着せぬ物言いが往人らしいなという印象。
「だからこれからはやったことじゃなくやりたいことを書け」
「でもそれ日記じゃない……」
「いいや日記だ。書いたことは俺が全部かなえてやるから」
しばし考え込む観鈴。
「……海に行きたいな。往人さんと」
「わかったよ。
行ってやるよ。海へ。一緒に」
これを聞いて笑顔になる観鈴と、言いながら遠い目をしている往人。
物思いにふける往人。
沸いてる鍋も気づいていないよう。
過去のことを思い出す。
往人の母親
「海に行きたいってその子は言ったの。
だけど連れて行ってあげられなかった……」
母親の言葉。
こんなに近いのに行けないなんてことがあり得るんだろうか?
行けないような何かが起きるんだろうか?
母の身に起きたのと同じことがオレの身にも起きるんだろうか?
全く無関係というにはあまりにも出来過ぎている感。
夜。
帰ってきた晴子。
「顔を見せてやってくれ」
「こんな酒くっさい顔見せたら余計にひどなるやろ」
やんわりと言ってはいるが、往人の言葉を拒絶している晴子。
「それより寿司買うてきたんや。
二人で盛り上がろー♪」
かっとなって寿司を払いのける往人。
「あ……
今ごっつ傷ついたわ……」
それにしてもBGMと言い関西弁と言い、あまりにも違和感が強すぎる。
「どうして観鈴を引き取ったんだよ……」
「はぁ……?」
「どうして観鈴を引き取ってしまったんだ!」
「なんやあの子話してたんかいな。
引き取ったんやない。押しつけられたんや。
うちはいやや言うてんけどなー」
「そのせいであいつはあんたに甘えられないんだろ!
自覚しろ!
あいつにとって親はあんた一人なんだよ!」
「……あの子は誰かと仲良うなると発作を起こすねん。
うちとあの子の気持ちは離れとった。
せやから一緒に暮らせるんや」
発作が起こらないのは距離が離れているからだと。
そのくらい距離がある。遠慮がある。
そういう距離感に対する自覚は明確にあるらしい。
バラバラに飛び散った寿司折り。
海老を拾って空いたシャリの上に乗っける。
まるで本当の親子でないことの表現のよう。
意図せずして「偽物の親子」を作ったかのよう。
「親子ってなんやろな。うちはホンマの親やないからようわからん」
海老を口に入れる。
「……まず。
ハズレやったー……」
強気な調子が影を潜め、なんとなく気の毒な感じで晴子を見ている往人。
本当の親子でも難しいのに、ましてそうでないならあんまり言うのも気の毒かといった様子。
外へ。
海岸で寝転がる。
母の言葉。
「女の子はね、夢をみるの。
最初は空の夢。夢はだんだん過去へとさかのぼっていく。その夢が女の子を蝕んでいくの。
あるはずのない痛みを感じるようになり、やがて女の子はすべてを忘れていく。一番大切な人のことさえ思い出せなくなる。
そして最後の夢を見終わった朝、女の子は死んでしまうの。
その子はずっとひとりぼっち。
二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう。二人とも助からない。
だからその子は言ったの。『私から離れて』って。優しくてとても強い子だったの。
だから私は死なずに済んだ。
でも、その子は……
この空には翼をもった少女がいる。彼女はいつもひとりきりで、大人になれずに消えてゆく。そんな悲しい夢を繰り返している」
思い出すのをやめて、目を閉じる往人。
「旅行に行く!?」
「そや。ぶらり一人旅。温泉巡りや」
「何考えてんだあんた!
あいつは、観鈴はどうすんだよ!」
直情的に怒鳴る往人。
のらりくらりとかわす晴子。
売り言葉に買い言葉と言った感じ。
そもそも「正論」が嫌いであること。
そして見えないところでバイクを走らせたりしていたことを思えば、晴子が言っている言葉のオモテとウラというのは見抜けそうなものであるのだが。
もはや取り返しがつかないほど二人の溝が深くなっているのを感じる。
・話を聞いた観鈴。
「わたしお母さん大好き」
往人には見えてないもの、感じてないことが観鈴にはわかる。
それは直接見ていることが大きいのだろうが、それを見ていない往人(と視聴者)にはそのことは感じにくい。
いかにもよくあるような「大好き」に見えてしまう。
これを聞いた往人。ぽつりと。
「海へ行こう」
珍しくマジメな表情。
観鈴のため、というよりは母の言葉、すなわち
「海に行きたいってその子は言ったの。
でも連れて行ってあげられなかった……」
に対抗しようとするかのように。
これから先何かが起こるんだろうが、その何かを見極めたいかのよう。
本当にたどり着けないんだろうか?
こんなに近いのに?
一歩一歩歩いていく二人。
「いつも歩いている道なのに、海ってこんなに遠かったかな?」
表情に陰りが。
そして涙が流れる。
「ごめんね。私、また……」
「またあの発作か……」
「ごめんね……すぐに……治るから……海はまた明日……」
泣き叫ぶ観鈴。
まるでアナログ的に、一歩一歩近づいていくことが何か別のものの高まりであるかのよう。
かくれんぼ、虫取り、魚とり。
そして海にいくこと。
そうしたことを「卒業」することを恐れるかのよう。
先手を打って途中で挫折したいかのようにも見受けられる。
結局、海には行けなかった。
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