多分10日前後あれば終わるんだろうなと思ってましたが、このペースだと一月はかかりそうですね(笑)
「みちるに初めて会ったのは、あの駅でした」
これは往人に語っている。
「父が出ていった後も、私は毎日父を迎えに行っていたんです」
出ていったわけだから絶対に帰ってくることはない。
でもその父を迎えに行っていたということは、家が嫌だったのか、父を本当に迎えに行きたかったのか。
・駅の仕事はもう辞めていたということだが、でもなぜ駅舎のカギを持っているのか。
「その頃からか、おふくろさんがお前を『みちる』と呼ぶようになったのは」
「ええ。でも、私が『みちる』でいれば母は笑ってくれましたから」
川遊びをするみちるを遠目で見ている二人。
「聖が言ってたぞ。
その頃からお前はあまり笑わなくなったって」
ザリガニを捕まえたみちる。
「夕立の上がった、夏の午後でした……」
虹がかかっている。
駅に行くと、見知らぬ女の子がシャボン玉を吹いている。
「どこかで会っているような気がしました。
いつもそばにいるような……」
シャボン玉を教えているみなぎ。
「みちるはね、みちるっていうんだよ!」
「私は……私はみなぎ!」
ここで「みちる」として生きてきたみなぎは自分の名前を久しぶりに確認する。
こうして笑顔を取り戻す。
「すべては私の『罪』から始まってしまったこと」
「罪……?」
「私が妹が欲しいなんて望んだりしなければ……誰も夢なんてみなくて済んだはずなんです。
私はこれからみちるまで傷つけてしまうかもしれない。
それでも、一目会わせてあげたいんです。
大切な人に……」
そばを駆けていく姉妹。
浴衣を着て夏祭りにでも行くかのよう。
どうやら花火大会に行くらしい。
しばし無言で去っていく二人に目をやる二人。
もしかしてあれは、みなぎとみちるなんじゃないか。
もしも少し違っていたら、本当にみなぎとみちるもああして走っていたのかもしれない。
ここで目を覚ますみちる。
「あれ? みちる寝ちゃってたんだ」
「一日中遊びまくったからな! 疲れたんだろ」
「お腹すいたでしょ?
夕ご飯、私のおうちで食べようか」
「みなぎの……おうち?」
どことなく気まずそうなみちる。
嬉しそうな母親。
「うふふ……娘が友達を連れてくるなんて珍しいから腕によりをかけて作ったのよ」
「あらいやだ、私ったらあなたのお名前をまだ聞いていなかったわ」
「……名前」
「そう、お名前。おばさんに教えてもらえないかしら」
「……」
みなぎを見るみちる。
「教えてあげて」
「いいの?」
もしかして、かつて探し求めていた「みちる」を見つけることで事態が一変するかもしれない。
「あのね、みちるね、みちるっていうの!」
カルピス(?)の氷が解けて涼し気な音を立てる
「! みちる……」
「うん……」
往人の手が止まる
緊張が走る
「そう、みちるっていうの……」
「あ、あのね、みちるはね、本当はね、本当は……!」
それ以上言葉が出ない
「本当は……」
「……みちる」
「とってもいいお名前ね!」
「え……」
ハンバーグのくだり。
ハンバーグをもうひとつもらうみちる。
涙を流す。
微笑ましげに見ている往人とみなぎ。
楽しそうな食卓で、みちるは思う。
「さようなら。
お母さん……」
・みちるがいなかったならば、「みちる」として生きていたみなぎは壊れていたかもしれない。
みなぎが回復し、それによって母親も回復していった。
二人が回復し、全てがうまくいった以上、みちるの「役割」は終わった。
・母親は会っている間みちるを最後まで「みなぎの友達」だと思っていた。
つまり
①娘は「みちる」でありその他は友達だった
②みちるはいないことに気づいた
③娘は「みなぎ」であり、その他は友達となった
ということを意味する。
つまり、みなぎを支えるためにやってきたみちるが状況とかみなぎや家族を救うとかそういったことを無視して、いきなり母親の前に現れていたとすれば、やろうと思えば「乗っ取り」も可能だった。
ずっと続いていたのはそういう状況だった。その状況への抗いとしてみなぎは「みちる」をやっていたともいえる。
本当に望まれていた「みちる」が乗っ取りに走っていたとすれば、それはそれで状況は落ち着いていたのだ。余るのはみなぎだけで。
・だからもし旅に出ていたら、それも一種の解決だったといえる。
みなぎには強い罪悪感もある。
「もしも私が妹を望んだりしていなければこうはならなかった……」
既にみちるはいるわけだし、家から出ているみなぎがこれ以上どこへ行こうと同じ事。
消えるのはみなぎであり、残るのはみちる。それも本当は可能だった。
・本当はみちるだって自分の母親に会いたかった。
その気持ちをずっと押し殺していた。
そのみちるを母親に会わせようとしたのは、みなぎの悪意ではなく思いやりだったろう。
会いたいだろうからと連れて行った。そこには優しさがある。
そしてそこで示されたのは、もう母親もしっかりと回復していたという「残酷な」真実だった。
本当は自分だって望まれた娘として会うことはできたはずなのに。
でもその道は閉ざされていた。すべて良くなったということが確認できた。
一番望ましい結果であり、これは普通に戻ったという証明でもある。
でも、それにしても一体どれほどみちるは苦しまなければならないことか。本来いないはずのみちるがすべての問題を解決し、背負ってそして消えていく。みんなが幸せになるためにすべてを背負う。汚いものをすべて背負って、それですべてがうまく回る。解決された。
そうしたらお払い箱かよというくらいに、事実は残酷な一面をみちるに突き付ける。
みちるにはもう居場所がなくなってしまった……
・敬介の思いがあり、それがケーキを「出現させた」ように。
先に思いがあり、それが形となって現れる。それは観鈴の誕生日を祝うためのプラスを意味した。
だとすればみちるの思いはそれとは違った形をとって表れる。
みなぎを支えるため、母親を救うため。そうして二人を支えるために現れたみちるは、マイナスなものをすべて背負った。
思いが形となるとすれば、確かにそれは二人を救うために役に立ったに違いない。そのために汚いものをすべて背負うような汚れ仕事。
みちるは雑巾のように汚いものを背負い、そして用済みとなり、消えていく。
みんなは救われた。
でもそうなるとみちるだけが救われない。
「みんな救われた。みちるのおかげだ。そしてもう用済みとなった。もういなくなっても大丈夫だ」
もしそういう展開になっていたとすれば、それは「救われない存在」を新たに生み出して終わるだけの話でしかない。
「いや、だって本人にも覚悟はあったし望んだわけだし実際うまくいったわけじゃん?」
確かにその通りだ。
でもそういうみちるにも人としての感情はある。
母親に「さようなら」と心の中でみちるが告げた瞬間、最高の終わりを迎えた瞬間、それこそが実は最もバッドエンディングに近いものだといえる。この話が「転落」しかねないとしたら、まさにこの平和な「母と娘と友達が揃った瞬間」こそが最も危うい。
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