※6話ものすごく長くなりそうなので表記を変えました(笑)
この方が見やすいかなと。
二人が抱き合って泣いているのを見て、微笑みつつ立ち去る往人。
みちると話をしている。
「今日も星がすごいね!」
「そうだな」
「みなぎも見てるかな? 星」
「ああ。
多分おふくろさんと一緒にな」
まるでみなぎの家の大きな問題が一つ片付いたことを星も喜んでいるかのよう
ふと伏し目がちになるみちる
「みちるはね、もう帰らないといけないの」
「ああ。もう遅いしな。
なんなら送ってってやるぞ」
・・・・・・。
ふと気づく。
「……お前んち、どこなんだ?」
「帰る場所はあるよ」
「みちる……」
「お空にはね、とってもさみしそうな女の子がいるの」
「女の子?
空に……」
ふと観鈴のことを思い出す。
夕暮れ時に遊んでいた観鈴。
「その子はいつも悲しい夢を見るだけで、ほかにはなにもない。
幸せになれないから、悲しい夢をみるしかない。
その子の背中には、とても傷ついた羽根があるの。
すごく不思議な力のある羽根」
・かなり早い段階からだが、往人が自分が探している少女はひょっとして観鈴なんじゃないかと思っている節がある。
しらほとやくもを思い出す。
「それには、いっぱいの人たちがみた、いっぱいの思い出が詰まってる。
みちるはそれを一枚だけ分けてもらったの。
会って慰めてあげたい人がいたから」
駅前、一人ポツンと座っているみなぎ
それを見下ろす情景
「それと、その人が幸せになれば、空に住む女の子も幸せになれると思ったから」
「そうか……」
「人間は思い出がないと生きていけないんだよ?
でもね、それなのに思い出だけでは生きていけない。
夢はいつか覚めないといけない。
覚めない夢はいつか悲しみに変わっちゃうから」
・食べないと生きていけない、生活がないと生きていけないということを言っているようでありながら、でも人生がなくてはやはり人は生きてはいけないんだと言っているよう。日々の糧さえあれば生きてはいけるように見える、でもそれは死なないということであって。生きるということではない。人が真に生きるという意味では思い出が必要なんだと。
・佳乃も聖と一緒に神社の祭りにやってきていた。しかし聖はその時お金がなくて風船しか買ってあげられなかった。
その時買った唯一の風船は人に押されて飛んで行ってしまい、本来楽しいはずの思い出は悲しみに代わられた。
・観鈴も晴子と祭りに来ていた。観鈴は卵が欲しいなと言った。これは恐竜の卵だと。でもそれは当然ニワトリの卵であり、孵化すればひよこになるもの。でも晴子もまたその時は買ってあげることができなかった。
観鈴は知ってはいた。これが恐竜の卵ではないことを。でもそうではない。観鈴が欲しかったのは思い出だった。でもそれを得ることはできなかった。「がお……」を口にする観鈴が、その実求めていたのは思い出ではなかったか。
ここにあるのは「モノより、思い出」ではない。モノとそれにまつわる事柄が思い出となる。思い出となるためのダシとなるのであって。モノと思い出とは完全に分離しては成り立たない。モノがあってこそ思い出に繋がるのであって、思い出が成り立つのはモノがあってこそであるといえる。二つは不可分の関係にあり、分離して別々に取り出すなどということはできない。モノがあればいいわけでも、思い出があればいいわけでもない。それは人生と生活の関係においても言える。生活無くしては人は生きてはいけない、しかし生活だけで生きていけるわけではない。人生がないと生きていけないが、でも人生だけでは成り立たない。
・みなぎは家庭の問題があって居場所を無くしていた。妹が生まれる希望は途絶え、母親は病気になり、父親はそんな家庭を見捨てて去っていった。残されたみなぎは母親の世話をしなくてはならなかっただろう。つまり、それは生活であるといえる。往人の言うみなぎのしかりしている面というのはここに由来することは間違いない。
でも、じゃあ人生は?
思い出はどうなる? 母親の世話をして、死んだ「みちる」となり代わりとして生きていく。必要だからそうするしかない。でもじゃあみなぎはどうなる?
みちるはそのみなぎにとっての必要な「思い出」となろうとしていた。支えになろうとしていた。
本来この世にいないはずの、産まれてくることができなかったみちるはみなぎへの優しさからこの世界に登場してくる。このままではみなぎが救われない、だからこそみちるという存在が必要だった。
だから、ここにいるんだと。
「だからね、みちるは羽根を返しにいくの。
みんなとお別れするのは寂しいけど、みちるはただの夢だから……
星は夜が明けたら消えないといけないものだから……」
事態を悟った往人
「みちる……お前……」
「みちるはね、夢の欠片。
ここにいるのはただの夢。
でもね、すごく楽しい夢だったよ。
すごく幸せだった。
みちるは……本当のみちるは……この世に産まれてくることを許してもらえなかったけど……」
涙を流すみちる
泣くみちるを抱く往人
・みなぎは「母にとっての夢の欠片」だった。母の夢である「みちる」との暮らしの前にみなぎという存在は消えた。
「みちるは本当はいない」ことに気づいてもみなぎは消えたままだった。これがみなぎにとっての「夢の終わり」を意味していた。
一方のみちるも「夢の欠片」なのだと。
それはみなぎという「生活」一辺倒な人を助けたいという思いから始まった。思い出でありたい、人生を豊かにしたいという思いだった。
具体的には、それは佳乃にとっての「風船」であり。観鈴にとっての「恐竜の卵」だった。
みなぎにとっての「それ」はみちるであり。崩壊しそうなみなぎはみちるによって支えられていた。
佳乃も観鈴もその部分がかなり脆くなっており、その周辺に大きな影響が及んでいるといえる。大体おかしくなるのはそこらへんに絡んだ「何か」がある。それはみなぎにとっても同様だが、しかし違うのはみちるがいたということ。これによって一線を踏み外すようなことにはならなかったし、大きな痛手がありながらも致命傷にはならなかった。
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