4話
「たった一つの宝ならばいっそ、わたくしの手で」そういって往人の首を絞める佳乃。
ここにあるのは「母から子へ」というものであり、それは佳乃と往人の関係には全く関係ないもの。母が子の首を絞める、それが佳乃の往人の首を絞める行為となって出ている。ここには全く躊躇がない。しかしその途中で佳乃が気を失ったので往人は助かった。
・佳乃には姉がいた。だから甘えることができた。
しかし姉には母親がいなかった。ずっとがんばってきた。
「母に会いたい」ということが≒「死にたい」であるという危うさ。
この佳乃は生と死の狭間にいる。
思慕の念は死へ踏み外させる危うさとセットになっている。
・スイカ割ですら異常にキレイに割れる。恐らくはそうしてやりたいという姉の行き過ぎた気遣い。
・あざができた。これによって佳乃の手首のあざと往人の首のあざはセットになった。
・母が死んで最初の夏だった。
神社で夏祭りが開かれていた。
「風船が欲しいな。風船で空飛べるかな?」
「風船で空が飛べるんだったら風船屋が飛んで行っているぞ」
お金がなくて一つしか買えない。他のものが買えなくなってしまうけど佳乃は風船を選んだ。
ほかの人に押されて風船はその拍子に空に飛んで行ってしまう。
「空に行けば母に会えると思っていたのだろう」
後でまた風船を買いに来てみると、もう祭りは終わっていた。もう会うことはできなくなっていた。
神社に回ってみると、奥が開いていた。
そこには輝くような白い羽根がある。
そこで見つかって追い出された。
帰り道でホタルを見ていると、佳乃が言った。
「お母さんのところへはもう行けないかね」
その翌日から様子がおかしくなった。強い光に覚えるようになったり、出歩いたりわけのわからない独り言をつぶやくようになったり。
ある日、メスを自分の手首へと押し当てていた。
誰かが佳乃のふりをしているんだと思った。
そこでバンダナを渡した。「魔法を使えるようになる」と言って。
手首を切ろうと思ったらバンダナを見て正気に返るはず。
「魔法なんてありはしなかったんだ」
羽根については管理人も知らなかった。祟り……なんてものは医者として認めるわけにはいかない。母を失って心の負担が重くなった、それが原因だろう。
・観鈴の夢。
夕べ見た夢は悲しかった。
夢は夢の中をさかのぼる。きれいで気持ちのいい風の中、なんであんなに悲しいんだろうかと。
・みなぎに出会う。
「みちるは何か言ってましたか。私と一緒にいた人のこと」
いかにも他人といったような言い方。
「私は……あの人の夢の欠片です」
そもそもいかにもそんなにお米が大好きでたくさん食べそうにはないみなぎ。
・夕方、佳乃を見に行くといない。
置手紙がある。
「私やっぱり空に行くことにします。そうすればみんなが幸せになれるような気がします。
往人君が探してる人にも会えるような気がします。
いつになるかわからないけど、必ずその人を連れてきます」
慌てて神社へ。
手首から血を流しているが、しかし外傷はない。
恐らくはしらほの血。
羽根に触れる往人。
「なんだか気持ちがざわざわする……」
「私はしらほと申します」
ということは明らかに往人達に向けて名乗っている感じ。
生まれた子「やくも」には生まれつきあざがあった。
夫は戦に連れていかれた。
ある日羽根が落ちてきた。
「神様がくださったお守りなのだと思いました」
その羽根を拾ったために村を出ることになり、遠い道のりを旅してこの村にたどり着いた。
流行り病が広がった時に村では「あんたがたが疫病を運んできた」と言った。
御子神を奉っており、災いを持ってくる者にはしるしがあるのだと。
この子をいけにえにしろと。
「かわいそうだ、そんなことができましょうか。わが子を殺す母がどこにおりましょうか」
そうしてその子の代わりにいけにえとなり死ぬことを選んだ母親。
・佳乃の場面。
佳乃は母親と会う。
「食べたいものはない?」おなかいっぱい!
「欲しいものは?」ない!
もう帰らないと。みんなが待っているから。
「(往人が)翼の生えた女の子を探しているんだって。私がその子ならいいなって思ったけど」
「つらいのなら、私と一緒にきてもいいのよ?」
「佳乃、あなたには羽根はないから、そこで幸せにおなりなさい」
しらほの子守歌が聞こえる
起きてみると、朝だった。
佳乃の手首からあざが消えた。
「結局あの羽根はなんだったんだろうね」
「さあな」
「私はお母さんのところには行けなかったけど、往人くんの言う通りちゃんとお礼が言えたの。往人君のおかげだね」
「いや、違う。それはお前の魔法だ」
風が吹いてくる。
バンダナをさらっていく。
「空には、あいつに行ってもらおう」
・往人が言ったことが運命を変えたわけではない。
聖の妹への思いがあった、それが形を変えていった。
そのことを往人が形を変えて伝えただけ。
最初にあったのは聖の妹への思いであり、「魔法」だった。
・じゃあ聖と母とは間接的に綱引きをしていたようなものなのか。
生と死に分かれて佳乃をどっちに引っ張るか……あるいはそうなのかもしれない。
母親はまさか死の側に引っ張りたいとは思っていなかったろうが、佳乃の思慕の念はそっち側に自らを追いやっていた。
その力と聖とが戦っていた。
・その力はどういう名前なのか。
「ゴメンなさい」なのか「ありがとう」なのかで話が大きく変わってしまう。
産んでくれてありがとうであれば、この世界にある様々な力に佳乃は感謝することになる。
往人や聖、様々な力があって初めてこの世界は「そうやって」存在していた。その世界というのはもともとあったものではない。ちょうど観鈴の誕生日に敬介がケーキを買ってきていたように。心があって初めて存在していた。
でも「手間をかけてゴメンなさい」「力を使わせてゴメンなさい」「気を遣わせてゴメンなさい」であればそこまでしてもらっている自分という存在が許せない。自分がいなければ、そうした力は存在する必要はなかったのだ。本来なくていいエネルギーを遣わせてしまって、もっと別の形であったかもしれない可能性を無にしてしまったかもしれない。
自分がいなければ、もっと違った世界があったのではなかろうか?
聖ももっと違った人生を歩んでいて、医者になどならずに自分のことを気にすることもなく生きていられたのでは?
・つまりそれはこの世界にある一種のエネルギーの話なんだろうと。
それをどう呼ぶか。
それというのは立った一言なんだけど、でもその意味するところは全く違う。
その根が違う。
その違いがもたらすのは圧倒的に違った結末ということになる。
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