レオン番外編2、なぜレオンはマチルダの頭を撃ち抜かなかったのか
なぜレオンはマチルダを不意に撃とうとしたのか、そしてなぜ撃たなかったのか。
なんでなんだろうなーと漠然と思っていたらとあるところで書き込みを見つけた。
「彼は自分でルールを作っていたからだ。
女と子どもは撃たないという自分で設けたルールがある、そのルールがあるがためにレオンはマチルダを撃てなかった」のだと。
確かに最もな話だと思う。撃たないって言ってるんだからそりゃ撃たないでしょうと。マチルダは女だし、しかも子どもである。そのルールにしたがって考えればどストライクな話なわけだから撃てるわけがない、とこうなる。
でも果たしてそうなんだろうか。それではあまりにも単純すぎる。撃たないと言ってるんだから撃ちませんではお話にならないほど話が単純になってしまう。そもそもこの話がそんなに単純な作りだとはどうも思えない。
そもそもなぜ女と子どもは撃たないというルールを作ったのか。詳しい経緯はわからないけど、多分レオンは最初女と子どもも撃っていたんだと思う。なぜなら仕事で請け負ったわけだから、それをしない理由はない。仕事で撃って、そして報酬をもらう。でもそうして終わりにならないほど後味の悪い思いをしたんじゃないかなと思う。
何がそんなに後味の悪い経験だったのか。
恐らくそこで、レオンは一体化したんだと思う。
何とか。
イタリアにいた時に好きだった女がいて、その女はその親父に頭を撃ち抜かれて殺されたわけだ。でもその話は事故として処理された。そしてレオンはその父親への復讐を考え、その父親をやはり事故に見せかけて暗殺するわけだ。そう、そこでレオンの計画は達成された。
そこでまずレオンはその憎い相手との一体化を果たしている。殺したいほど憎い相手なのに、復讐が終わってみれば、世界中でその最も憎い相手と最も近い相手はまさかの自分自身だった。
殺すこともそう、事故に見せかけたこともそう。
憎しみに取りつかれて行動をし、気が付いてみるとまるで自分はその憎い相手そのものそっくりになっているわけだ。憎しみが何を生んだかと言えば新しい悲劇だし、何よりも悲劇なのは自分がまるでその相手そのものに見えたことなんじゃないかと。憎しみは対立や反発を産むものではない、それどころかものすごく対象と自分とを近づける感情であり、そして手段だということをレオンはこの時初めて認識したんじゃないだろうか。そこでレオンは怖くなってイタリアを、住み慣れた土地を飛び出してアメリカに渡った。ところがそこで自分の仕事となるのは「掃除屋」だった。相手の父親がイヤだった、もう住み慣れた土地もイヤだとなって飛び出したはずが、逃げた先のアメリカで自分を待ち受けていた運命がまさかの掃除屋だという悲劇。最も自分に向いており、才能があり、経験がある。そう、その父親は自分の秘められた才能を最も開花してくれた相手だったんだよね。そしてそれを仕事とし、それで稼いで生きていくこと。それを選ばざるを得ないという皮肉。
読み書きのできないレオンにとって、選べる仕事はそう多くはなかっただろうし、まして向いててしかも一流になれる仕事なんてこれ以外になかったのだろう。そう、文字通りその道をずっと歩いていかざるを得ない地獄をそこで見たはずだし、なんて人生というのは過酷なものか、なんと皮肉な運命かとそこで運命を呪ったに違いない。そこで恐らくは第二の一体化があったんだよね。
そして第三の一体化があった。つまり女、あるいは子どもを撃つ仕事があり、レオンはそれを遂行したんだよね。ところが異常に後味が悪かった。
多分女はかつての好きだった女性を、子どもはかつての無力だった自分を思い起こさせたのだろう。そういう立場のヤツを殺すことがこんなに気持ち悪いとは! そしてそこでルールを作った。
女と子どもは撃たない、と。
そして第四の一体化としてあるのがこのマチルダの頭を撃ち抜こうとした瞬間だったんだと思う。
第一、第二、第三と一体化を感じて、イヤでイヤで仕方なかったはず。
そしてマチルダをかくまった夜に思ったんだと思う。
確かにマチルダをこうしてかくまった。でもこの先どうなる? マチルダの人生を背負っていけるのか? いやそもそもマチルダをかくまっていることがばれたらオレの身だって危うくなる。だとすればマチルダを殺害して、死体を処理した方がオレの破滅にはならない。そう、早めにやるに限る。
そうして最もいい手段として閃いたのがマチルダの殺害だった。
ところが、いざマチルダの頭に銃口を向けてみると。ここで起きたのは何だったのか。
これが第四の一体化現象なんだよね。
父親を事故に見せかけて殺すこと、さらにはアメリカに渡ったこと。
さらにはマチルダの頭を撃ち抜くこと。
これではますますあの父親に近づくだけじゃないか……そう、憎悪というものがその対象と自分とを近づける最も効果的で最も皮肉な運命をもたらすことを知り抜いているレオンにとって、これこそまさにその最も憎むべき相手との一体化以外の何物でもないんだと。
そしてルールを作った。女と子どもは撃たない。
でもこのままじゃオレがヤバくなるから撃とうかなと思い直してマチルダに銃口を向けた。
そこで思ったわけだ。
何やってるんだと。
これをやった瞬間に、オレはあの父親そのものになってしまうじゃないか……
ルールなら特別ルールを設ければいい。自分の身が危うくなりそうなら仕方がない。でもあの父親と一体化するのだけはごめんだ。
都合が悪くなれば、対象がイヤになれば消して解決。事故にでも見せかける。それではあの父親と変わらない。そしてオレが辿ってきた人生をまた新しくなぞるだけ。
そうしてオレは一生そのループから逃れることはできない……そういう恐怖が見えたんじゃないかなと。
ここでレオンに見えているのはマチルダの人生とかそういうことじゃないし優しさでもルールでもない。
憎しみの末路であり、自分の人生のなんと皮肉な事かを呪うことであり、それだけはイヤだ! という自分の心の奥底からの叫びなんだと。オレはあの憎むべき親父と一緒になることだけはイヤだ!そしてこの腐った人生のループ、同じことの繰り返し!
そういう思いこそがレオンにここでマチルダを撃たせなかった唯一の理由なんじゃないかと思う。
「オレはあいつとは違うんだ」という自らに対する矜持がある、でもそれはそういう言葉を必要としなければならないほどにもう隠しようのないものであり、要するにどう言い繕っても「お前とあいつのやっていることは同じだよ」ということでしかない。それがわかっている、わかっているがために否定しなくてはならない、絶対に否定されなくてはならないことなんだよね。
この一場面に含まれているのはそういうものではないのかという一考察(という名前の妄想)です(笑)
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