戦国策91、中射の士がとんちで楚王からうまく逃れる話






 不死の薬を荊王に献じた者がいた。
 取次の役人が手に持って入ってきた。中射の士(ちゅうしゃのし、宮中での護衛をする兵士)が尋ねた。
 「食べられますか」
 役人は「はい」と言った。なので忠射の士はこれをひったくって食べてしまった。
 これを聞いた王は怒って、この中射の士を殺そうとした。
 そこで中射の士は人を介して王に説いた。


 「臣が取次役の者に尋ねましたところ、『食べてもよい』というものですから食べたのです。
 つまりこの臣には罪はなく、あるとすれば罪は取次役にあると言えます。
 また、客人が不死の薬を献じて臣がこれを食べ、そして王がこれを殺したということになればそれは死の薬であると言えます。
 それによって王は罪なき臣を殺されて、それでもって王が人に欺かれたことを天下に公示なさることとなります」


 ・この話の解説には、一休さんの水飴の毒の話や燕にも似たような話があるよと書いてましたので探してみました。
 一休さんの水飴の毒
 http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/03/19.htm
 和尚さんの水飴全部食べちまおうぜという話です。

 燕の話(韓非子、列子)
 https://ameblo.jp/yk1952yk/entry-11342371786.html
 今回の楚の話によく似た話です。


 この話自体の詳しい解説については、こちらに既に上がってますのではしょろうかなと思います。
 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1440717244


 ・で、もうここまでのところで5~6回ひたすら楚の話が上がってきてますしこれでどうやら楚の話はひとまず終わりのようなので、わたしとしてはその方向性から見ていきたいかなと。
 とりあえず「頃襄王(けいじょうおう)」と書いてありますので、この王が頃襄王か、あるいはその時に記述された先代の王かはわかりません。
 
 ここまでで楚がどういう状態なのかを見てきました。
 江乙(こういつ)による魏からの作戦で、楚の宣王は昭奚恤(しょうけいじゅつ)は遠ざけられました。
 懐王の代になれば陳診(ちんしん)が王を諫めるわけですが、二度もその意見は退けられ張儀に好き勝手やられる羽目になりました。張儀が楚にやってきたので捕らえましたが、寵姫の意見を聞いてとうとう張儀も殺せない。完全に張儀に舐められてますよね。
 悪い流れを断ち切ることができず、グダグダと進んでいき、そして秦によってボロボロにされ、懐王の次が頃襄王となります。


 賢者の意見は信用しないし聞かないが、寵姫の意見は聞く。
 そして諸国からボロボロにされてきましたが、ここでの中射の士はその中で微妙な立ち位置だと言えます。
 いかにも口が立つし賢者風ですが、でも名前は知られていない。
 警戒されていないのでそれっぽいことを言っていますし度胸もあるようですが、またこれがとんちが効いていて聞いてておもしろい。
 王にしてみても
 「こりゃあ一本とられたわ」と気持ちよく釈放できたのではないかと思われます。この王が誰かはわからないですが、多分賢者風な立ち位置の男の意見を久しぶりに聞けた例だったのではないかと思います。


 ・そして頃襄王の次の王が孝烈王となり、この人の下にいたのが黄歇(こうあつ)であり、後の春申君(しゅんしんくん)です。
 黄歇についてはこちら
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%A5%E7%94%B3%E5%90%9B

 この人は孝烈王を王にするために太子を速攻で楚に返します。
 そして秦を相手に一歩も退かない交渉を行います。その度胸、機智の巡り具合、打つ手の的確さは秦王(当時は恐らく昭襄王)からも認められます。
 そしてこの功績により、黄歇は令伊の地位に就くことになります。
 恐らく、こういう度胸が据わっており機智に富んだ、というかとんちを聞かせることができるような人物がもてはやされる風潮は、当時の楚にかなりあったんではないかと思います。
 だから賢者というだけではかたっくるしいけどでも寵姫の意見ばかりを聞いてても国は正せないよねと。そういう時に、こういう人物が好まれる風潮ができてきたというのがあるのではないかなと。


 その風潮を作ったのが、この名前も出てこない中射の士なんじゃないかと思います。そしてその風潮は当時グダグダと進んでいた楚の雰囲気を恐らくぶっ壊すだけのインパクトがあったかもしれない。
 そりゃすごい的確でおもしろみのないことを言うだけなら、そりゃ賢者にでもできることでしょう。
 でも危ない状況でも度胸が据わっておりユーモアを言える口の立つような人物はまれでしょう。
 そしてそういう空気感が、楚に当時続いていたグダグダな空気感を破壊したということが、楚に新しい時代をもたらすきっかけとなったのではないかと思います。
 まあかなり想像の域を出ませんけどね(笑)







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