戦国策29、馮諼が孟嘗君を助ける話




 非常に長いです。
 なので①~④に分けました。


 ①
 斉の人に馮諼(ふうけん、馮驩ふうかんとも書かれる)という者がいた。
 この人は貧しくて自立ができなかった。彼は人に紹介してもらって孟嘗君のところへ寄宿させてもらいたいと願い出た。
 孟嘗君は「何か好きなことがありますかな」と聞いたが馮諼は「特に何も好きなものはありません」と言う。
 「何ができますかな」と聞くと「特に何もできません」と答える。
 孟嘗君は笑いながら「よろしいでしょう」と彼を受け入れることにした。孟嘗君の側近は、孟嘗君が彼に敬意を表していないことに気づき、菜食の膳を彼に出した。



 そうしてしばらく月日が経つと馮諼は剣を叩きながら歌った。
 「長剣よ、帰ろうか。膳には魚がついてない」
 側近が孟嘗君に言うと「魚を出してやれ」と言った。そうして馮諼は食客の中でも魚を出される者の列に加えられた。



 しばらく経つと、また馮諼は歌った。
 「長剣よ、帰ろうか。外出するにも車がない」
 側近の者は馮諼を笑いものにしながら孟嘗君に報告した。「車を出してやれ」というので、馮諼は食客の中でも車を与えられる者の中に加えられた。馮諼は車に乗り、剣を担いで友人たちを訪問して回り孟嘗君に客として厚遇されていると言って回った。



 しばらく経つと、また馮諼は歌った。
 「長剣よ、帰ろうか。家族がそろって住めないから」
 側近は馮諼のことを貪欲でイやなやつだと噂した。孟嘗君は「馮諼には親がいるのか」と尋ねると「老母がおります」と答えたので、孟嘗君は彼の親の食料を出すことにした。
 こうして馮諼は歌わなくなった。


 ②
 孟嘗君は文書を回して食客たちに尋ねた。
 「どなたか薛(せつ)から貸した金を取り立ててくることのできる人はおられるだろうか」
 馮諼はここでできますと書いたが、孟嘗君はすでに馮諼を忘れており、この男はだれかと側近に尋ねたところ「あの『長剣よ、帰ろうか』と歌った男です」と答えた。
 孟嘗君は笑顔になり、
 「あの客人は予想通り有能な男であったのだ。なのに私はろくにあれから対面することもなかった。早速会いに行こう」
 と出かけていき、謝罪しつつこう言った。
 「雑事に追われ、気苦労に心を乱し、もともとの愚鈍さも祟り国事にもかまけてしまい先生には大変な失礼を致しました。この度は辱めを受けたと思うこともなく、私のために薛に金を取り立てに行ってくださるとか」
 「ぜひさせていただきましょう」と馮諼は言った。


 そうして車を用意し支度も整え終わったときに馮諼は言った。
 「取り立てが終わりましたら、何か買ってきましょうか」
 孟嘗君は「では、私の家にはあまりないと先生が思うものを買ってきてください」


 馮諼は薛へ行き、役人に命じて取り立ての必要なものを集めさせた。証文を合わせてみると、一致した。
 そこで馮諼は孟嘗君の命であると言って、貸した金は皆に下賜されたのだと言い、証文を焼き捨ててしまったので、人々は大いに喜んだ。


 馮諼は斉に戻り、早朝には孟嘗君にお目通りをと言った。
 孟嘗君はあまりにも馮諼の帰りが早いので不思議に思ったが、衣冠を正して会った。
 孟嘗君「もう取り立ては終わりましたか。なんと仕事の早いことよ」
 馮諼「取り立ては終わりました」
 孟嘗君「それで、何を買ったのですか」
 馮諼「我が君は家にあまりないものを、と仰せでした。これを私が推し量りますところ、屋敷には珍品財宝が山とあり、犬も馬も外の屋敷にはたくさん、美人は後宮の後列まで埋まっております。そこで、義が足りないと考えまして、義を買って参りました」
 孟嘗君「義を買ったとは、どのようなことですか」
 馮諼「我が君は薛という狭い地域を治めておられますが、民を慈しむことなく領地を資本として商人のように利益を稼いでおられます。そこで私は主君のご命令であると称して、借金は皆に下賜するとして証文を焼き捨てましたところ、民は皆喜んでおりました。
 これが『主君のために義を買う』というものです」
 孟嘗君はこれを聞いていかにも不快そうに「そうでしたか。先生、ご苦労様でした」と言った。



 ③
 これから一年が経ち、孟嘗君のことを斉王である湣王(びんおう)にそしるものが現れた。(この湣王は孟嘗君を追放し、楽毅に領土を残り2城まで追い詰められた王です)
 湣王は「先王の臣は、わたしの臣とはしないこととする」と孟嘗君に伝えた。そこで孟嘗君は薛に戻ることになった。まだ百里も行かない間にも、たくさんの民が老人を支えつつ幼児を抱きつつ孟嘗君を出迎えに出ていた。
 これを見た孟嘗君は馮諼に伝えた。
 「先生が以前仰っていた義を買ってくださったということを、よく実感いたしました」



 ④
 馮諼は言った。 
 「利口なウサギは穴を三つ持っているがために死を免れることが可能になるのです。
 我が君には一つの穴ができましたが、まだ枕を高くして寝られるほどではありません。そこであと二つの穴を我が君のために用意いたしましょう」
 孟嘗君は馮諼に車を50乗と、黄金百斤を持たせた。
 馮諼は西方の梁(りょう)の国へと行った。
 梁の恵王に会って、「斉は孟嘗君を放り出しました。諸侯のうちで真っ先に孟嘗君を迎え入れたものは富み、兵力は強大になるでしょう」と言った。
 王はそれならばと宰相を上将軍として、空いた席に孟嘗君を就けようとした。使者に黄金千斤と車を100乗持たせて迎えに行かせた。


 馮諼はいち早く戻り、孟嘗君に
 「黄金千斤、車100乗とはたいへんなものです、これを斉が聞きつけないはずがありません」と言った。
 梁からの使者は三回往復したが、孟嘗君はこれを固辞した。
 斉王はこれを聞き大変に恐れ、太傅を使いにして黄金千斤と四頭立ての馬車を2両と、王の剣を贈り物として孟嘗君に詫びた。
 「私は貴殿に大変失礼なことを致しました。私はあなたから助けていただくほどの者でもないですが、国を治めていただけますでしょうか」


 これを聞いて馮諼は
 「どうか先王の祭器を頂いて、宗廟を薛の地に立てなさいませ」と言った。
 そして廟が完成し、馮諼は報告した。
 「これで我が君は三つの穴を作ることができました。
 これからは枕を高くして寝られますな」と言った。
 この後、孟嘗君が斉の宰相であった数十年の間、大したいさかいもなく済んだのは馮諼の知恵があってこそなのである。







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