史記① 管仲の話




 史記をいろいろ書こうと思います。といっても漫画が元だけど(笑)漫画で見出せるものを書いて、文字のものがそれより良くて見るところがあればそっちもやっていこうかなと。いろいろあったはずだけど、今この漫画一冊しかないという(笑)



 1巻


 ①管仲(かんちゅう)
 管仲は斉の桓公に仕えた。
 もともとは敵対しており、管仲は公子糾(きゅう)に仕えていた。公子小白(しょうはく)に仕えていたのは鮑叔であり王の座を争うことになる。結果から言えば小白が成功し、桓公となるのだが。まあそこらへんは詳しくは漫画見た方が早いので割愛する(笑)



 斉と魯との間で戦争が起こり、条約の調印をすることになる。その場に曹沫(そうばつ)将軍が現れ、桓公に刃物を突き付け、斉が奪い取った魯の地を全て返すように迫る。脅されてしぶしぶ桓公は誓約書を書き、斉と魯とは対等な条件で和議を結ぶことになる。桓公の側としては勝ったのに対等とは気に入らない、そもそもあれは脅されて結んだものだから無効だろうと考える。
 管仲はここで、脅されたものとは言え一度結んだものだから信義を守ることが必要だと説く。ここで条約を破れば平気で約束を破るものだとみなされかねない。それは百害あって一利なしであると言う。
 それに従って桓公はその条約を破らない。その判断によって、諸侯は桓公に感じ入り競って斉と手を結ぼうとしたという話である。こうしていやいや結ばされた条約でさえ守ろうとする、信義を大切にする桓公は信用できると判断された、見做されたという話になる。



 ここで重要なのは、そうしないという選択も十分にあり得たのではないかということであるし、つまり管仲の助言に逆らった場合はどうなるかということだと思う。
 少なくとも管仲が「正解」をここで示したと考えたとして、それを正解だと受け入れてじゃあ現実生活で応用しようとしたならば、普通は痛い目に遭うだろうし、遭いかねないということでもある。脅迫によって無理に結ばされたそれを受け入れ守ろうとするようなら普通は周囲をつけあがらせ、「じゃあオレもそれをしよう」となるものだ。こいつは弱いし、脅迫をされたら逆らわないと。つまりマイナスにはなろうがプラスにはそう簡単になると思えないものだということである。早い話が「そんな選択をするということは舐められかねない」ものであるということである。活かそうなんて考えると痛い目に遭いかねない。
 こうした話は中国の歴史において数多く出てくるが、例えば項羽と劉邦の話にも出てくる。
 


 ・張良は劉邦の妻と父を取り戻すため、項羽も兵糧が危うくなったことだしと和議を結ばせる。そして和議は締結し、項羽が後ろを見せた時点で追撃を勧めるのである。劉邦はこれを渋ったことでチャンスを逃す。相手に余裕が生まれた時点で劉邦がようやく決断をするため、大敗することになる。
 これは、和議が結ばれて敵が背中を見せている時に追撃するなんて卑怯なマネができるかということに尽きると思う。しかし張良と陳平はそれを劉邦に勧めるのである。それについては、この項羽が背後を見せたというのが絶好のチャンスであるということ、妻と父を救い出すためにやったこと、「虎を育てて災いの種を育てる」こと、「両雄並び立たずである」ことなどが説明として挙げられている。
 

 この話を推測するに、
 ・和議を破ったとして、それをされても仕方ないくらいに項羽は残虐な行いを繰り返している(主君を殺したり、たくさんの兵士を生き埋めにしたり、敵を作らないためによく皆殺ししていたこと)ために、誰も文句を言わないだろうということ
 ・つまり劉邦の信用は損なわれない、むしろあの誰も何も言えない強力な項羽を前にして「よくやった!」と言われるようなものだったのではないかということ。卑怯よりもむしろ痛快だったのではないかということ
 ・この時点で項羽(楚)と劉邦(漢)くらいしか有力な国が残っていないために(韓信の斉もないではないが)、そうしたとしてもやむを得ないという判断があるのではないか。つまり「両雄並び立たず」であり、むしろそうしない方が「甘い」とみなされかねない要素もあるのではないか。
 ・それに踏まえて項羽の兵糧も底を尽きかけているし、こんな好機を逃す手はないのではないか。
 ・ここでまた項羽が息を吹きかえしたとしたら、また恐怖の時代が到来しかねない。それだけは避けたい思いがあったのではないか。
 恐らくこうした事情があったのではないかと思われる。
 こうした事情と、和議をいきなり破って項羽を背後から攻めることとを秤にかけてみると、当然ここは攻めるべきでしょうとなった。そしてそれを劉邦に勧めたといえるのではないだろうか。




 さて、こうしたことを踏まえて管仲の話に戻すと。
 春秋時代でまだそこまで殺伐とはしていない、和やかな時代背景も恐らくはあったろう。そうした時代に脅迫されて桓公は仕方なく和議を結び、せっかく奪った土地を全て魯に返すことになる。対等な条件での屈辱的な和議が結ばされる。
 


 ・脅迫によって結ばされた和議の条約がある。
 ・脅迫による和議など無効だと主張し、今にも切ろう、魯に攻め込もうとする桓公。
 ・この時代はまだ統一などはほど遠く、各地に諸侯が乱立していたこと。つまりたくさんの諸侯の目があると考えられる。
 ・たくさんの諸侯の目がある以上、よく見られることは得であり、悪くみられることは損である。
 ・恐らく脅迫によって結ばされた条約を破ることは、まあ普通のことではないかと思われる。普通だし、まあ妥当だろうと。
 ・しかしそこに「平気で条約を、約束を破るやつだ」というケチがつけられる可能性もある。いったんそうなるともう取り消しようがなくなる。
 ・誰も斉の味方をしてくれなくなる。
 ・曹沫は恐らくここまでは読んでいた。当然脅迫による無効なものだとされ、破られかねないものだが、もし破った時のマイナスが非常に大きい。それによって魯が滅んだとしても、斉も信用をなくし、斉という国が成り立たない状況まで追い詰められかねない状況になると踏んでいた。
 ・管仲は曹沫のその思惑に気付いていた。その思惑にはまって斉がマイナスにならない、いやむしろプラスを得るためには条約を守るしかない。つまり斉は魯を容易に滅ぼせないという最低ラインが作られた。
 

 恐らく妥当に考えられるのはここまでであると思われる。その後、脅迫されてでもその和議を守ったことにより桓公の信望が高まることにはなる。もしも曹沫の思惑が魯を救ってくれた「お礼として」諸侯から桓公への信望が高まることまで意図しており、管仲もそれを見越していたら素晴らしい話なのだが。
 少なくとも曹沫が下手に魯を滅ぼせないような手を打ったということ、管仲がそれに気づいたがために条約を切らせないように桓公に進言したことは間違いない。



 この話を現実に活かそうと思ったならば。
 曹沫はいわば見え見えの見え透いた「罠です」というような糸を張って行った。囮(おとり)を仕掛けていったのだと。これを切ったらおしまいですという意図があるのだが、管仲はそれに気付いた。だから桓公に切らないのを勧めた。結果としては桓公の信望が高まることになる。そういう話だと言えるのではないだろうか。


 
 額面通りに、「和議を素直に守ったからいい」「破ったから悪い」と考え始めると恐らくこの手の話は役に立たないだけでなく有害なところがある。こういうところを分析していけたらと考えたものである。





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