虐殺反対ルートにおいて、デニムは生きるか死ぬかのギリギリに追い込まれることになる。このギリギリの淵において、デニムはその意志と思想がどこまでのものであるかを試されることになる。
そもそもが虐殺の犯人の嫌疑をかけられており、そのために懸賞金をかけられて毎日の生活にも怯えなくてはならない。
その状況でタインマウスの丘に助けを求めにいけばヴァイスの策略にはまってしまう。はめられた一行はクリザローに行くしかなくなる。クリザローではフォルカスの提案に従って船を海賊から奪い返して海上に逃れるしかない状況に陥る。ギリギリの連続である。
ここでバイアンから仲間のシスティーナを助けたいことを告げられる。
ウォルスタ解放軍に追われてギリギリの淵、命の瀬戸際にいるデニム一行は一刻も早く古都ライムにいきたい。
ここで秤にかけられるのは、
①自分たちが生き残りたい、死んではおしまいだということ、死にたくないということからくる焦燥感、生存本能、生存欲求
②人の道としての理想。つまり虐殺を行ってその罪を敵になすりつけ、正義と大義名分をこちらが得るという、そうした操作と卑怯な手口とは正反対のものであり、それの積み重ねの上にある全うな形としての勝利。正々堂々としたものであり、戦争という非人道的なものの渦中においても極力卑怯なことは避け、余計な犠牲は減らしたいし、困っている人がいれば助けたいという思い。
(ただし、そもそもガルガスタンとウォルスタとの戦力差と人口差は圧倒的であり、まともに戦っていても埒があかない、むしろすぐまた虜囚の身に戻りかねない、存亡の危機に陥りかねない状況下であるという事実を前提として踏まえる必要がある。あくまでここではその前提の上で、人の道という理想を説いている)
この2つが秤の両側に位置しており、他にも様々な要素がここに絡んでくることになる。
・最初の約束ではフォルカスと奪われた船を取り返すこと、また仲間(のバイアン)を助けること、そして古都ライムに送ってもらうことだけが提示されていたこと。
つまり最初の約束と違う。話が違うということ
・システィーナ、つまり他の仲間をしかも遠方まで助けに行くことは示されてはいなかったこと
・しかももちろん救出は命がけになりかねないこと
・海上に出たら安心で、ウォルスタ解放軍は追ってはこれないこと(ただしこの時点ではこの情報が本当かどうかはわからない。もしかすると追ってくるかも知れない)
・ダムサ砦は遠いが、それでも古都ライムに着くのはせいぜい三日遅くなる程度の影響であること(実際には往復で二日遅れる)
こうした要素が絡んでくる。それによってまた秤が微妙に左右に触れたりしているわけである。プレイヤーの、そしてデニムの心はここで大きく揺すられる。「せいぜい三日」というこの三日が大きく響いてくることになる。そよ風ではない、これが突風のようにすら思われてくるのだ。この三日という響きが。
ここで私事で恐縮だが、筆者であるわたしは最初焦燥感に駆られてシスティーナ救出を選ばなかった。システィーナを見捨てた。そしてその後レオナールに迫られた際に解放軍に再度所属することに、つまりNルートを選ぶことになったのである。
つまりここで何が言いたいかと言えば、恐らくバイアンのシスティーナ救出のこの提案こそが、後々レオナールに迫られた際の伏線になっていると考えられるということである。ここで焦燥感に駆られて三日を惜しみ、救出に行かなかったならばその後のバクラム侵攻に伴ってレオナールにこのままじゃ全滅だと迫られた際に、やはり秤は全滅を避けるようにと触れるはずである。全滅してしまっては「意味がない」、それはすでにバイアンの提示を聞いてある程度固まった価値判断がある、つまり焦燥感とその連続があるがために出てくる結論だと言える。
そう思えば、何度もプレイしていると解放軍の追手はこないしレオナールに賛同しなくても別に滅んだりしないし、三日かけて助けにいけば仲間が三人増えるしといろいろなことはわかるとは言えるのだが、それによって価値判断という要素については同時に薄まっていると言えるのではないだろうか。
全滅しかねない状況、危機に次ぐ危機、危機の連続は焦燥感を強く感じさせる。この焦燥感が価値判断に、選択に大きく作用する。そして全滅を避けるため、死なないため、いや焦燥感から逃れるため、一息つきたいがために手を組むという判断も十分考えられることである。
それが仲間たちの信用を大きく損ねるようなものであったとしても。
人は判断するために様々な要素を取捨選択して決断するわけだが、その決断は完全にそのひとつだけで独立しているわけではなく、むしろすでに起きた様々な出来事がけっこう重大な影響を持っているのではないか。つまり過去の判断で未来の判断もある程度予測が可能であると。
ここではそれについて明らかにしようとしているのではないか、と思ったという話でした。
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