ハボリムの選択肢で真の敵は「暗黒騎士団だけ」と答えた場合、思想云々は抜いて敵を単純に規定する者は三人になる。ハボリムはただバールゼフォンに対する復讐、デニムもバクラムと暗黒騎士団は悪いと言うし、その後登場するオリアスも悪いのは父である、ニバスであると見做すことになる。ハボリムには他にもいろいろ考えていることはあるにせよ、基本的には悪いやつが悪いという極めて簡単な図式ばかりが見て取れることになる。Nルートの一つの特徴だと言えるだろう。
これを短絡的だと言うか、極めて単純化されていると見るかは重要な分かれ目となるだろうが、少なくともデニムの場合はあまりに単純化されすぎていて罪だと言えるほどであるといえるだろう。まず、公爵が虐殺をしていることは一切無視している。「真の敵」という言葉がかかる可能性は一切考慮されていない。その対象ではない。虐殺で同胞を5000人殺害したこと以上に、父の仇であることがここでは重要視されている。
そして、前回書いたような力の「構造」、力を使いたい者と欲しい者、そして利用したい者という図式に到達できていない(つまり、そっちの選択肢を選んでいない)。それはすなわち、バクラムが仕方なしにローディスの力を借りたと見ることができない、そういう目線がないということを意味している。ウォルスタも以前に仕方なしに力を借りたことがあるというのにである。
それはじゃあゼノビア勢の力を借りたデニムたちは一体どうなのかということになる。自分たちだけではアルモリカ城を奪還できたかどうかは極めて怪しい。つまり自分たちもそういう形の恩恵を受けた、それにも関わらずバクラムに力を貸したローディスだけが悪いと言っているのだから。同じ穴のムジナじゃねえかとか恩知らずにも程があるとか、自分たちのことは棚に上げているということを言いたくもなるような言葉である。まして、力をどこからも借りることができぬまま壊滅していったヴァレリア解放戦線をつい先日見たばかりならばなおさらである。
さて。オリアスは父であるニバスの命を狙い殺そうとしている。オリアスはツッコミどころ満載な人間であるといえる。
・聖職者でありながら革命に参加し人殺しをしている。
・聖職者でありながら父の命を狙っている。
・戦争をなくすための戦いをしているはずなのに、その戦いによって人殺しをしているという矛盾をある意味一番ツッコみやすい人物ではないかと思える。
・そうでありながら人の道を説いてもいる。
もはや支離滅裂な感じすら感じさせる。
こうして後々オリアスはニバスにツッコまれるわけだが、本来LやCルートでこうしたツッコまれ方をするのはデニムの役割だった。Cルートではザエボスは綺麗事ばかり抜かして汚い仕事は他人任せ、そう言って何人殺した? とデニムに散々悪態をつくし、Lルートでもこの偽善者め!と言って死んでいった。本来は、そういう立ち位置で散々罵倒されるのはリーダーでもあるデニムの役割だったといえる。思想や建前を打ち出す、それはこうして他人から後ろ指を指されることでもあったのだ。
こうして、ザエボスは容赦なくデニムのアラを衝く。ところがNルートにおいてはそうしたことを何も言わずに死んでいくということは以前書いた。ザエボスは本音と建て前、理想と現実を衝くのが非常にうまい。いくら綺麗事を並べても、ザエボスは容赦なく看破し、そのアラを衝いてくる。
そのザエボスが黙って死んでいく。
Nルートのデニムは言及する価値もないと思われているのか知れない。
そしてさらに、Nルートではデニムではなくオリアスがニバスから言われることになるのである。
リーダーではないが最もツッコミどころ満載なオリアスはこうしてニバスから散々な言われ方をする。これは決して二人が親子関係にあるからという理由だけではない。そもそもこのデニムにはそうした意味でのツッコミやすさがない。ツッコまれるだけの思想にそもそも欠けているということ、そして先述の通りデニムは出る杭にならぬよう、打たれないようにとNルートの中で解放軍に順応することに必死だったということが関係している。
そもそもそうして言及されるだけのものを持たない。そうした波風を立てることの少なさがこのNルートには特徴としてある。
リーダーだけど、思想的な意味で矢面に立って答弁することが不得意だともいえる。決してほかのルートに比べて得意ではないのである。
そうしてニバスから散々に言われるオリアスだが、オリアスがニバスから散々言われているということも、Nルートらしさを引き立てているといえるのではないだろうか。
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