タクティクスオウガ⑱ Nルートを進んだデニム





 Nルートにおいては、デニムはザエボスと戦っても特になにも言われたりはしない。LやCで散々言われたのがウソのように、ザエボスは「無念だ……」とだけ呟き死んでいく。


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 その代わり、デニムは解放軍の中では仲間内で散々に言われている。ヴァイス捜索に出かけたと思えばゲリラ救出に参加し、暗黒騎士団の一人を殺害する。一章で非干渉条約締結のための会談に参加しておきながら、そのうちの一人を殺害するのである。それは一人の人間としては「いい人」かも知れない。何も考えることなく知人を助けたのだから。しかしそれは、臣下としての道には背いている。独断行動で動いて解放軍全体に損害を出しかねないという危機をもたらしたのだから。
 「なぜ暗黒騎士を殺害したのか」と責められるデニムだが、ロンウェーによってその場は治められる。


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 ここで重要なのは、ただでさえ険悪になっている暗黒騎士団との関係、そして非干渉条約存続が危うくなっていること、だからこそデニムが責められているということである。古都ライム襲撃後、初めて使いをやって関係を確認しているまさにその時期に暗黒騎士のひとりを殺害しようとは。
 しかしそれ以上に重要なのは、ウォルスタ解放軍のうちの一部が暗黒騎士団の一員と戦い、そのうちの一人と戦って勝つことに成功していることだと言っていいだろう。
 まさか、あの暗黒騎士団に勝てる者がいようとは。
 それだけの実力者がウォルスタ解放軍内にいようとは。
 裏切り者のゴリアテの英雄がまさかそこまで強いとはということである。だがそうした事実はあろうとも、手放しに誉めてデニムを増長させてはならない。デニムを牽制しなければならないのである。従って、「もうよい。済んだことだ。使いを出せ。」と一見諦め顔にみえるロンウェー公爵の渋い顔つきは、すごい切り札を手に入れちゃった♪ というホクホク顔とイコールでもあるということだ。
 もしや今の解放軍の実力があれば、暗黒騎士団はいらないんじゃないか? と皆が思うほどであり、これがあるがためにロンウェー公爵が強気にフィダック城攻略作戦を考えていくことも可能になっている。一見このNルートではロンウェー公爵は輝かしく見える。しかし本当にすごいのはこうした指示をてきぱきと示すロンウェー公爵ではなく、そうした指示をいくら出されてもこなしていくデニムの実力の方である。あのレオナールですら、ガルガスタンの残党狩りに手こずり、少なからぬ損害を被って悪戦苦闘を強いられているというのに、デニムは何を命じられても次々とこなしてしまう。
 デニムには失敗も不可能もないのである。


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 ただ、組織を運営する身としては難しい顔をしていなくてはならない。全く空気の読めないやつ、しっかりしてくれよと誰もが言いたいが、その実力の高さは認めざるを得ない。
 こうした中、誰も面と向かって言わないが、レオナールはデニムの味方であるとはっきりと示す。


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 こうしてデニムに対してアメとムチとがうまく作用していく。針のムシロの上で四面楚歌を生きているデニムにとっては、涙がでるほどありがたい一言に違いない。
 ところがこうした難しい組織内での空気の読み合い、牽制、政治ゲームにデニムはうまく順応できない。
 しかも、一度解放軍を離れておきながら、首に懸賞金をかけられるおたずね者でありながら再び解放軍に属している。理由はどうあれ、一度裏切った裏切り者以外の何者でもない。仲間内からの印象は最悪である。


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 さらには虐殺をした公爵の下で再度働こうということで、戦う理由がうまく見出せない事情もある。デニム自身、戦うべき敵の姿を今ひとつよく見出せてはいない。具体的な敵をバクラムなんだと示すことは一応できる。しかしハボリムに問われても戦う動機と、敵という概念についてデニム自身が深め完成させたものを示すことはできないのである。
 虐殺に反対しておきながら、しかもその真実を知りながら、その虐殺した側につくというのだから。


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 デニムの中でそれらは漠然としたまま、曖昧なままである。一応「バクラムが全ての元凶だ」と言えはするが、その答えもとてもハボリムを満足させられるものではない。いや、目先の敵だけが敵であるとするその回答よりは、わかりませんとはっきり伝えた方がまだ救いがあるといえる。目先の敵が全てだと言えるほど、戦争がそんなに生易しくないものであることをデニムが一応感じていることが示されるためである。もちろん、「民族紛争は権力者によって引き起こされてきたものです」なんてことは言えない。そこまでNルートではデニムは到達できない。そもそもその必要性がない。




 こうした要素を踏まえると、ザエボスは明確に戦う理由がないデニムに対し言うべき言葉を持たないということ、こうしたあやふやな姿勢のデニムに対しウォルスタ内で既にその仲間が非難しているということ、それによって十分すぎるほどデニムは針のムシロの上だったということを指摘できるだろう。軍議などにおいてもデニムはそうそう容易に発言できなくなり、発言どころか声を発することすらできなくなっていく。存在感が薄くなっていく。反感を持った仲間に揚げ足を取られないよう、指摘されないよう、ツッコミ入れられないようにしている。レオナールに同意を求められても、うなずくのでやっとである。もはや「はい」という一言すらいえないほどまでに、解放軍内での肩身は狭くなっていく。デニムは追い詰められていく。声を出さない、揚げ足を取られないことがNルートという針のムシロを選んだデニムの生き方だと言えるし、解放軍との順応法だったといえるのである。
 縛りがきつくなるほど、デニムの実力は認められていることを示すが、その実力が認められれば認められるだけ縛りはきつくなっていく。言動に制限がかかっていく。それはデニムが実力者である以上、永遠に続く。
 それはレオナールとデニムの実績の差を意味しない。失敗したか成功したかではない。
 手綱を締める側か締められる側か、それに順応したかしてないかということが問われている。


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 この場はロンウェー公爵殺害後の会議場である。
 ロンウェー公爵が不幸にも急逝してしまい、ウォルスタ解放軍首脳部がこれからをどうするかということを議論している時に、末席のデニムは何一つ意見を言わない。それどころかこの議場で話を振られても、レオナールに対し頷くのが精一杯といった様子である。
 こうして揚げ足を取られないこと、仲間に突っ込まれ指摘される要素を一つ一つなくしていった末に、発するべき言葉すら奪われたデニムの姿がここに見て取れる。Nルートの三章終盤で示すこの姿は、順応を何よりも最優先させてきたデニムの生き様、処世術、そして結論を見出すことができるといえるだろう。
 「一言も発しなければ、揚げ足は取られない」のである。
 そしてこれはロンウェー公爵とレオナールによる、圧倒的な実力はもつがその暴発は恐れつつ、しかも手綱はしっかりと確保しておくというデニムに対する牽制方法の存在と、その成功をも示している。こうしてデニムは限りなく骨抜きに近い状態にされていると言えるのである。


 そもそも、戦うべき理由を前面に打ち出し主義主張を持って戦っていき、戦う理由をより洗練させていかねばならない他のルートとは違い、Nルートでのデニムは戦うべき理由を自分で持つ必要はない。命令はロンウェー公爵が出してくれるし、失敗したらレオナールが慰めに来てくれる。いや、それ以上に、デニムは組織の方針を知り空気を読み揚げ足を取られないような生き方を模索していかなくてはならない。順応しなくてはならない。いかに揚げ足を取られないかを考えるのに精一杯で、戦う理由など考える暇もない。
 そもそも、公爵の手先に過ぎないデニムにそうしたものを持つ必要性がない。


 こうして次は何をするべきだろうか、どのようにすれば突っ込まれないかと空気を読むので精一杯で、常にデニムは戦々恐々としているのである。



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