タクティクスオウガ⑯-1 「どうして、てめぇがリーダーなんだッ!」

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 「どうして、てめぇがリーダーなんだッ!」とヴァイスは言う。それずっと気にしていたのかという事に気付かされてはっとする瞬間である。
 しかしヴァイスのいう事も最もである。なぜデニムがリーダーなのか。なぜヴァイスではないのか。物語の主人公だからと言ってしまえばまあそれまでではあるが(この話はここで終わるしかない……笑)、それではちょっとヴァイスが可哀想な気もする。そういうわけでなぜデニムがリーダーなのかをここで考えて詰めていきたい。ではどうやって詰めるかといえば、基本的にはデニムの選択肢を考察することによって詰めていこうと思う。


 ランスロット襲撃を企てるが、いざ襲撃してみるとランスロットは同名の別人であった。ローディスではなくゼノビアから来ていること、何より片目ではないことが決定的だった。
 そうしてランスロットが別人だとわかった際に、カチュアとヴァイスは素直に過ちを認める。そこでデニムのこの物語初の選択肢が出る。


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 1.どうか僕らをお許しください。
 2.姉さん、油断しちゃいけない。


 1はその場の空気と文脈をよく把握しており、ゼノビアの人々との関係性にわざわざ波風を立てたりしない。リクツで考えれば、こちらを選んだ方がプラスなのは言うまでもない話である。この時点で敢えて不必要に刺激し敵を作りかねない可能性、わざわざ敵を作りかねないマイナスを考慮しても、1を選ぶのがまあ妥当だと言える。
 では、その選択肢を選ばない場合の、2はどうなのか。全く空気と言葉と文脈を把握していないし、わざわざゼノビアの会って間もない人々を疑って刺激し敵を作りかねない最悪な選択肢だと言える。何一つプラスになることがない、その上この三人を危険に晒しかねない危険な選択肢である。さらにはこの疑いにはこの時点で根拠らしい根拠が全くない。もしあるとすれば、ゼノビアという言葉を聞いて即座に、ローディス―バクラム的な図式からゼノビア―ウォルスタになる可能性に思い当たった場合だろうか。そうでもなければ、このゼノビアから来たと言っている騎士がこの一見「何もない」ウォルスタをわざわざ歩く動機などないわけだから。まあそれにもし感付いたとしても、敢えて刺激して敵を作る理由にはならないだろうし、まして三人でこの五人を相手にして勝てる可能性も少ないわけだから刺激するのは得策ではない。




 しかしそうした可能性を考慮したとしても、このデニムの疑いはゼノビアの一向をギクリとさせるものでもある。事実この一行はブリュンヒルド捜索任務を極秘で請け負っている。この島に持ち込まれたことも把握しているし、そうであればまさかローディスと組んでいるバクラムの方に行くわけにもいかないし、かといってガルガスタンに行っても人は大勢いて傭兵などそこまでいらないに決まっている。そうなるとウォルスタの方に行く流れは、まあ妥当な流れだと言えるだろう。果たしてランスロットという名前で人違いで襲撃される事態をどこまで予想できたかは疑問であるが、ガルガスタンの統治下で、さらに暗黒騎士団に襲撃されたりしているこのウォルスタ人のいる地域の中でも、ゴリアテに当たりをつけて歩いていたと考えて間違いないように思われる。
 ゼノビアの先兵隊だと疑われると後々面倒なことになりかねので「追放」扱いにし、「傭兵として金目的で腕を買ってくれる人を探している」、そういう建前を一応作っておく打ち合わせを事前にしていたのは間違いないだろう。


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 ところがデニムのこの疑いはそうしたものをそもそも一切信じない。
 そのため傭兵の話や追放の話に進むことすらできない。


 カノープスは「放っておいていこうぜ」と一応言うが、恐らくこうしたチャンスを待っていただろうランスロット一行は立ち去ったりはしない。信じようとしないデニムの説得にかかるのである。
 「我々はきみたちに危害を加える者ではないよ。
  信じてくれないか?」
 「私は騎士の名誉をかけて、この剣に誓おう。
  きみの敵とならないことを。」
 ここで次の選択肢が出る。


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 1.あなたを信じましょう。
 2.……。



 ところで、「危害を加える者ではないよ」というこの言い分はどうなのだろう。


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 事実、危害を加えられることはないし、むしろアルモリカ城攻略に参加してくれたりもする。それは最初からゼノビア勢の計画にあったことなのだろう。ウォルスタにとって確かに危害を加えられるようなことは確かにない。危害どころか一見プラスな要素しかないのである。
 しかしゼノビア勢にとってはブリュンヒルド捜索、奪還のためこの島に来ていることを踏まえれば、ウォルスタが利用される状況であるとも
言えるのである。危害は確かに加えられないかも知れないが、最初からウォルスタがある程度目星をつけられていたのも間違いない。つまり「危害は加えない」ことが「目的のために利用しないわけではない」ことも含意していたとも言える。じゃあウォルスタは利用されていたのか、ゼノビアは利用していたのかといえば、でもゼノビアが協力しなかったならウォルスタはアルモリカ城を奪還できなかったよね、持ちつ持たれつだよねという言い分は成り立つとは言える。その意味では後ろ暗さはそこまでない、とはいえ全くないと言うことはとてもできないものであると言えるだろう。
 「きみの敵とならないこと」を誓うというこの言い分も、いかにも最もらしい言い分に見えないこともないが、その実誓っているのは「君の敵とならないこと」でしかないとも受け取れる。
 バクラム―ローディスを引き合いにだすならば確かに敵ではない、しかし本当の味方だとも言い切れない。確かにあくまで主はバクラムであるのは間違いない、しかし果たしてバクラムは完全に独立しているといえるものだろうか。ローディスの意向に従い、ローディスに牽制され、自分たちの言いたいことも言えず、やりたいこともできない。独立している体裁でありながらも完全にローディスの傀儡(かいらい)でしかないといっていいほどである。先日「寄生虫に支配されたカタツムリ」が話題となっていたがまさにそう、主客逆転、まさに寄生虫に乗っ取られたカタツムリに等しい。表向きはバクラムでありながらも、実質的に寄生虫に支配されているに等しいものだと言える。そうした独立が、果たして独立だろうか、独立と言い得るものだろうか。


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 ブランタはこのバクラム国の主君であるにも関わらず、やりたいようにやることができない。暗黒騎士団はブランタを牽制し、動きを封じ、自分たちの都合のよいように持っていこうとする。自分たちの都合を押し付け続けるのである。





 さて、この初期の段階のデニムがそうした知識やバクラムの内情を事細かに知っているとは言えない。それでもランスロット一行のこの受け答えに対する不信感はある。この答えに対する違和感は残る。しかし「敵とはならない」「危害は加えない」こうした言葉の配置は果たして自然だろうか。いや、一見極めて自然だが果たしてそれは正しいのだろうか。横から見れば直線だが、上から見るとひどく曲がりくねった道があったりする。そうした真実を隠しながら、敢えて横から「間違ってはいない」物言いをする。それは果たして真実を表しているのだろうか。そうした作為的な方向性をもしも具体的に突き詰めてみると、意外な方向に出る可能性はあるし、またその可能性は最期まで捨てきれるものではないという話である。


 「あなたを信じましょう」という言葉は、そうしたものを具体的に突き詰めているわけではないし、疑惑とその方向を捨てきれていない。それでも疑惑と現実的なマイナスを秤にかけて、疑惑を持ち続けることのマイナスの大きさから信じることを選ぶ。まあ百歩譲っても妥当な選択肢だと言えるだろう。
 しかし「……。」という選択肢がまだある。その選択肢には根拠などもちろん全くない。それでも受け答えと、ゼノビアがウォルスタの土地に今いるという事実、そうしたことからくる疑念は「偶然だとは思えない」し、「無意図的だなものだとは思えない」ことを示している。それが現実的にははっきりとマイナスなものであったとしてもである。


 ヴァイスはこの後「ローディスとゼノビアはヴァレリア島で戦争するつもりなのか!」と怒りを露わにする。これは「我々は追放された」という言葉で一応解消される。
 ところがアルモリカ城でロンウェーは「それは真か」とこの問題を蒸し返す。

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 ランスロットは騎士団長、ウォーレンは占星術師であり建国の功労者である。そうした人間をあっさり追放したりするものだろうかと疑問を持つ。証拠を示してもらいたいという。これはカチュアがランスロット一行をかばうことでうやむやになってしまう。
 この問題を、4章になってデニムが再び蒸し返すのである。

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 ゼノビア勢とはもう十分に親しくなり、違和感もない。またこの話を振ることが失礼にも思えるような段階で、この話を聞く。
 ヴァレリア島で、ゼノビアもローディスと同様、ウォルスタを母体とした傀儡政治をやるつもりなのかと、その真意を尋ねるのである。
 この姿勢というのは、第一章で「……。」を選んだデニムの姿勢と相通じるものがあるのではないかと思える。その当時はただ漠然とした疑念と不信感でしかなかったものがいろいろなことを経験し、立場も変わっていくことでより具体性を増し、よりはっきりとしたものを踏まえた上でウォーレンに問うことができているように思えるのである。




  続く。



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