「あれは確か…」
「反乱分子が潜んでいるという情報で攻めましたが…」
「ニセ情報だったというあれか…」
という会話が咄嗟にできるほど、ランスロット=タルタロスとバールゼフォンとはツーカーの仲である。この話はウソであり、実際には最初からプランシー神父狙いでゴリアテを襲撃したものだった。そのウソを信じるしかない状況で一向は非干渉条約を締結したまま部屋を出ていくことになる。
ウォルスタの使いが出て行ったあと、バールゼフォンは言う。
「…なにもあそこまでなさらなくともよいではありませんか…」

バールゼフォンにしてみれば、気脈は通じているものと思ってばかりいたタルタロスがまさかこの会談の場でウォルスタの使いに対し頭を下げたというのは意外だった。レオナールも相当驚いたようで、「お、おやめくださいませ」と口にし、そこまでさせたこととこの場はもう非干渉条約は締結されたものだから立ち去るのが一番と暇を告げる。そもそも交渉においてはランスロット=タルタロスは一枚上であり、分が悪すぎたのも大きい。
それにしても、まさか暗黒騎士団の団長が頭を下げて謝罪するとは一同予想外過ぎた事態であった。バールゼフォンにしてみれば、裏切られたとまではいかないにしても、腹心の部下であるはずのNo2の自分がその意図を把握できないというのはショックがあまりに大きかったのだろう。

「ハボリムを覚えているか…」タルタロスは口にする。バールゼフォンにしてみれば自分の弟なわけだからわからないわけがない。
「仲の良い姉弟であったな。かつての貴公らと同じように…な」

初見ではこの意味するところがあまりよくわからない。しかし、
①ハボリムというのがおり、バールゼフォンとはどうも兄弟の関係らしいこと
②かつてはハボリムとバールゼフォンとは仲が良かったが、どうも今は仲が良くないらしいこと
③デニムとカチュアの姉弟も今は仲がいいが、今後どうなるかはわからないと、この先のストーリーに伏線をもたらすような意味合いを含ませてあること
こうした要素を漠然とながら感じ取ることができる。この予想はまさに的中し、デニムはカチュアとこの後仲違いをすることになるが。それはまだまだ後の話である。
・4章では『二重スパイ』という話がある。「ローディスの情報収集のために潜入しておきながら、解放軍へ裏切った者がいる、それがハボリムであると誰もが言っている」という話である。

ここでハボリムはデニムに自らの過去を語り、バールゼフォンへの復讐のためにこの島へ渡ってきたことを告げる。
「父の命令でロスローリアンへ潜入しながら教皇派の犬になったバールゼフォン」と
「情報収集のため解放軍に潜入しておきながらローディスを裏切ったハボリム」とをいかにもなぞらえるかのような話の展開である。恐らくは、バールゼフォンの経緯を知っているから、「ああやはり兄弟だな」とこの兄弟を皮肉るような文脈でこの話が登場したのではないだろうか。それが実際のところはバールゼフォンに復讐するためにこの島へと渡ってきたのだということが判明するわけである。

・話を進めて、ハボリムがバールゼフォンを復讐のため命をつけ狙う程の憎しみを抱きながら生きていることがわかると、タルタロスの言いたいことはよりわかるようになる。
「あれほど仲の良かった兄弟でも、命を狙うような関係になったりすることもあるのだから不思議なものだ」と。ウマが合うとか、趣味が合うとかそういうことで兄弟仲が良かったりする。いや、そもそもそうした理屈は必要ないのかもしれない。それが思想や方針の違い、意見の相違から始まり、命を狙うような関係にまで変容してしまうこともある。


デニムとカチュアの姉弟の仲の良さを見ていると、自然とタルタロスにはそのことが妙な重みを持って感じられたのだろう。仲の良さという共通点を持つ意味で、この兄弟はバールゼフォンとハボリムの兄弟に自然に重なって感じられた。
バールゼフォンとハボリムの仲の良かった兄弟を仲違いさせたのがタルタロスを含めた様々な事情があったのだろうが。
今、目の前にデニムとカチュアという仲の良い兄弟がいる。そうしてその前に立ちはだかる自分の存在感の奇妙な符号を感じつつ、頭を下げる。不意打ちによって新たな一石を投じてみる。
「親の仇」だと二人が固く信じていたら、より強固な関係でもあったのだろうが、意外と素直に謝罪して頭まで下げている。これによって仇だという共通認識、強い結びつきにほころびが出たと言えるのではないだろうか。仇だと思っていたら相手は極悪非道、なんとしても倒さなくてはならぬ仇敵、引きずりまわしても謝罪させたい相手だったのではないか。
それが、意外とこうしてあっさり頭を下げている。デニムらにしてみれば面食らったような気持ちだろう。こんなにあっさりと謝罪をするとは……

バールゼフォンはショックを受ける。腹心の部下である自分が、タルタロスの内心が読み取れないのがもどかしい。しかしそこには「不意討ち」という毒気が含まれていた。タルタロスは、謝罪をすることの中に猛毒を含ませていたのである。そこに狙いと計算があるのがタルタロスたる由縁だろう。
バールゼフォンはハボリムについてこう言う。「愚弟なれど、頼もしい男でした」バールゼフォンとハボリムという関係性があり、仲がいいのであればそれは脅威である。
しかし一度脆くなり破綻し、憎みあい命を狙うような関係になれば、もう修復は不可能である。それを踏まえているからこそ、毒気は強力な力を発揮するようになる。「呉越同舟」と言うが、そうして結ばれた強い繋がりは、共通の強い動機を失えば、そこからは意外と脆いものである。


ランスロット=タルタロスはデニムとカチュアという仲の良い姉弟に素直に謝罪した。それには二人だけではない、一同が面食らうほどの衝撃があった。
「仲の良い姉弟であったな。かつての貴公らと同じように……な」タルタロスはデニムとカチュアの関係にくさびを打ち込んだ。そうして秘かに刻まれた亀裂が次第に大きくなっていき、最終的に仲違いし敵同士となり戦い合うことになるのである。
この記事へのコメント
プランシー(あるいは別ルート)から情報を引き出せた時期によりますが、もし会談時点で既にカチュアの正体に関する情報を掴んだ、あるいは推測できた状況にあり、統治の方針を構想してカチュアをオヴェリア王女として擁立する腹案があったとしたら、仲の良い姉弟を敵対関係にしうる一手を打ったことに対する比喩として持ち出したのではないでしょうか。
彼女のランスロット=タルタロスに対する悪意を緩衝する為に、あるいは後に王女に敬意を払っていることを感じさせるために、過度とも思える印象的な謝意を見せたのでは。結果として、後のイベントにおいて、ランスロット=タルタロスはカチュアを脅迫ではなく勧誘により引き入れに成功しています(当然これは衝撃の事実の暴露の影響の方が多大ですが)。
きんた
そしてオズとオズマが拉致しに行くとボロボロでしゃべることもできないと。だからどの段階でどれだけボロボロなのか、≒秘薬を使われてどの程度まで喋ったのかということはチェックされる余地があると思いますね。問題はその確認方法が今ないことで笑
ただ、Nだと拉致時点でセリエにはきはきと喋ってるのでルート毎の違いもあるにはあります。
個人的には、一章の時点で全てをランスロットが把握してるのは速すぎるように感じてます。なので、あくまでもランスロットの冴え渡る直感が事態を見通したという稀有な例だと捉えた方がいいのかなと思いますね。
これは考えられるだけのテーマになり得ると思いますよ笑(^^)ありがとうございます!
> 推測的考察を一献。
> プランシー(あるいは別ルート)から情報を引き出せた時期によりますが、もし会談時点で既にカチュアの正体に関する情報を掴んだ、あるいは推測できた状況にあり、統治の方針を構想してカチュアをオヴェリア王女として擁立する腹案があったとしたら、仲の良い姉弟を敵対関係にしうる一手を打ったことに対する比喩として持ち出したのではないでしょうか。
> 彼女のランスロット=タルタロスに対する悪意を緩衝する為に、あるいは後に王女に敬意を払っていることを感じさせるために、過度とも思える印象的な謝意を見せたのでは。結果として、後のイベントにおいて、ランスロット=タルタロスはカチュアを脅迫ではなく勧誘により引き入れに成功しています(当然これは衝撃の事実の暴露の影響の方が多大ですが)。