タクティクスオウガ⑥作戦立案能力 ヴァイスの場合その1

 前回はセリエの作戦立案能力を検証してみたが、決していいとは言えないことがわかった。とにかく失敗に次ぐ失敗で、部下からも心が離れている。やっぱり失敗かと思われるような計画性と具体性のなさ、そして繋がらない成果とだから焦って行うことによる手段を選ばない実態。そして人々の心は離れていき、組織が縮小していく悪循環に陥っていることがわかった。
 では次にヴァイスはどうだろうか。第一章は陰に隠れておりあまり表に出ない印象で、彼が本格的に活動を開始するのは二章以降となる。


 一応第一章でも「ランスロット暗殺計画」というものをデニムとともに立ててはいるが、一行が来てみればランスロット=タルタロスではなく別人のランスロットだった。それをよく確認もしないで襲撃するところ、情報収集の不正確さ、無鉄砲さやさらにはその行動に命も賭けているところなど、散々な有様である。「そういえばランスロットは片目のはず」とカチュアに指摘されるまで気付きもしない。冷静さにも欠けている。
 つまり、単純に暗殺計画を練って実行してみただけに思えるのだが、単にここからだけでも情報収集能力の低さ、冷静さのなさ、よく確認しないところ、情報を統合して検証できる能力の低さ、さらには行動によって失敗した時のマイナスなどを総合的に踏まえる能力の低さなどここから既に様々な要素が見受けられるのである。
 

 ちなみにデニムの選択肢には「無礼をお許しください」というものの他に「信じちゃいけない、騙されているかもしれない」というものがあり、これは一見するとこれだけ別人だという要素がありながら、デニムは一体何を言っているんだといわれそうなところではある。
 しかし実際ゼノビア一行は「追放されたという建前」ではあるが、しかもそれを疑ったとしてもゼノビアの先兵隊だろうくらいにしか見えない、ところが実際はゼノビアの奪われた国宝を極秘裏に探す任務を受け持っていたわけだから、この時点でゼノビア一同を疑う姿勢とその嗅覚はただならぬものがあることがわかる。それが例え空気感を多少なり、あるいは大きく損なうような性質のものであったとしてもである。その意味では素直に受け取ることなく疑える能力は非凡とは言えないが、少なくともヴァイスにはないものである。この時点で正解を当てることなどできるわけもないが、少なくともその方向性をこの早い時点で既に指摘していることは評価に値するといえるだろう。


 さて、ヴァイスの話の続きだが、古都ライムでシスティーナに出会った際散々口汚く罵り、感情を一方的にぶつけるところも見て取れ、ここからは感情を抑制する能力、それによって後先考える能力の低さも見て取れる。これは公爵に「それでは公爵はロスローリアンに屈するとおっしゃるのですか?」と気軽にふっかけるところからも見て取れ、人に好かれる要素もあまりないように見てとれる。いろいろな場面があるが、ヴァイスが出た場面では一番嫌われそうなのは大体ヴァイスである。
 そうしてバルマムッサ収容所へ行くことになる。住民を前にヴァイスは熱弁を振るうが、しかし住民の腰はあまりにも重い。いくら自由や誇りを言ったところで住民は蜂起に参加しようとは思わない。


(ここからL)
 デニムは虐殺計画に乗るわけだが、ヴァイスは断固反対する。「どうしたんだ!それじゃやつらと変わらないじゃないか!」「当たり前だろ!罪もない人々を殺害して真の革命なんか起こせるものかッ!」住民の全く動かぬ心を前にして、さらには友を敵に回すこと、組織から離れることになりながらも、それでもヴァイスは「真の革命」を諦めない。
 そこからのヴァイスの行動は目覚ましいものがある。敵地であるガルガスタンに潜入し、当然捕縛され殺害される可能性がありながらもバルマムッサの真実を流布して回る。さらには民族対立は指導者が煽った意図的なものであり、民の自主的な自治が必要だとネオ・ウォルスタ同盟を立ち上げる。
 こうして、バルマムッサの虐殺をガルガスタンになすりつけてウォルスタの勢力を拡大しようとするロンウェーの目論見に抵抗して見せた。
 この時点で、かつての一方的な熱弁、無鉄砲さすらも感じさせる行動力、後先考えない思慮の少なさは影を潜め、その全てが好転し始め、輝きを増している、もっと具体的にいえば精度を増しているということができる。これはかつてのヴァイスには見受けられないものだったし、例えば先のセリエがヴァレリア解放戦線を組織して失敗し、失敗しては人々に見限られ、見限られるから戦力が低下し、手段を選ばず過激派になっては青息吐息になっていたことを踏まえても、その差は歴然としていると言えるだろう。
 ヴァイスのかつての無計画さ、行動力はあるがムダに熱弁を振るい人々から嫌われる行動はバルマムッサ後の艱難辛苦を通して研ぎ澄まされることになったのである。

 続く。


この記事へのコメント

  • そういえば、Lルートのヴァイスってヴァレリア解放戦線には一切コンタクトを取っていないんですよね。敵は同じなのだから、連携くらいしてもよさそうなものですが。
    2024年01月23日 16:34
  • きんた

    確かに仰る通りですね。「あの過激派か!こいつは厄介だ」とか言ってたくらいですから、ヴァイス個人あの組織に対して心情的にちょっと近寄り難いものを感じていたのかも知れませんね。

    > そういえば、Lルートのヴァイスってヴァレリア解放戦線には一切コンタクトを取っていないんですよね。敵は同じなのだから、連携くらいしてもよさそうなものですが。
    2024年01月23日 16:39
  • >>確かに仰る通りですね。「あの過激派か!こいつは厄介だ」とか言ってたくらいですから、ヴァイス個人あの組織に対して心情的にちょっと近寄り難いものを感じていたのかも知れませんね。

    当初あれだけ警戒していた聖騎士ランスロット達に協力を持ち掛けようとしたり、敵であるはずのデニムを最後まで説得をしていたあたり、解放戦線にも交渉くらいは持ちかけたのかなという気はしますよね。もしそうだとしたら、Lルートの人格者のヴァイスに見限られる解放戦線及びセリエ姉さんってよっぽどなんだなって思います。ただ、システィーナ達のような穏健派は自分の組織である解放同盟に引き込むくらいはしてほしかったと思いますよね。


    2024年01月23日 18:21
  • きんた

    なるほど、それは非常におもしろい着眼点ですね。
    恐らくはそのよっぽどのケースなのかなと思いますが、確かに聖騎士に助力を〜と言っていたり、デニムとランスロットが夕焼け見ていたようなエピソードがヴァイスと他の人との間にないとも限りませんし。デニムを見ているとランスロットによく懐いてましたからね。
    「助力を乞うは軍門に下るということ」というくだりがLルートでありましたが、言うこと聞いてもらったんだから多少向こうの言い分も聞かないと、という意味ではヴァレリア解放戦線に恩を着せるみたいな選択肢は恐らくは絶対に取りたくなかったんじゃないでしょうかね。
    そう思うなら、ゼノビア勢があれだけアルモリカ奪還に協力してながら特に何も言わないのは不気味というか、欲のないいいおっさんたちだなくらいに思っていたとしても不思議ではないのかも知れませんね。

    > >>確かに仰る通りですね。「あの過激派か!こいつは厄介だ」とか言ってたくらいですから、ヴァイス個人あの組織に対して心情的にちょっと近寄り難いものを感じていたのかも知れませんね。
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    > 当初あれだけ警戒していた聖騎士ランスロット達に協力を持ち掛けようとしたり、敵であるはずのデニムを最後まで説得をしていたあたり、解放戦線にも交渉くらいは持ちかけたのかなという気はしますよね。もしそうだとしたら、Lルートの人格者のヴァイスに見限られる解放戦線及びセリエ姉さんってよっぽどなんだなって思います。ただ、システィーナ達のような穏健派は自分の組織である解放同盟に引き込むくらいはしてほしかったと思いますよね。
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    2024年01月23日 21:41
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