デニム一行はバルマムッサ収容所へと赴くことになる。そこはガルガスタン占領下にあり、同胞であるウォルスタ人が5000人収容されている。この5000人を蜂起させ、自軍の味方につける、というのがデニムらに与えられた任務であるのだが。
収容所の人々はそれを断る。
①争いは憎しみしか生みださない
②ここにいれば戦渦に巻き込まれることもなく、食いっぱぐれることもない
③「解放軍」(デニムたちの軍)が何もしなければ平和は続いたはずだった
④ウォルスタだろうとガルガスタンだろうとただ首がすげ変わるだけの話でしかない
➄そもそもガルガスタン軍は圧倒的なのに勝てる気でいるのがおかしい
こうした理由が列挙される。
それはロンウェー公爵の方でも予想していた事であった。レオナールはロンウェーから言われた通りに、バルマムッサ収容所の人々の殺害をデニムに告げる。
①バルマムッサがガルガスタンによって滅ぼされれば、他の自治区は戦わざるを得なくなる。そこでガルガスタンに対する大義名分が出来上がることになる
②反ガルガスタンでウォルスタの結束は高まる
③こうした暴挙をガルガスタン反対派は黙っていない
④ガルガスタンはウォルスタ軍と反体制派に二分されることになる
こうしてウォルスタは勝機と大義名分を手に入れることができるというわけだ。
ここでデニムは虐殺に賛成するか反対するかを迫られることになるわけだが。
虐殺に賛成するか、反対するかを分析していこうというのがここでの試みである。
①この時点における虐殺の現実的妥当性
この時点で虐殺をすることの効果はまさに絶大であり、ロンウェーの目論見通りだと言っても過言ではない。非常に効果的である。ロンウェーの説明を聞いても、ここで虐殺をしてその罪をガルガスタンになすりつけない手はないと言っていい。ベストな手だし、生きるか死ぬか、存亡の危機に陥っていると言っても過言ではないウォルスタ陣営にとって喉から手が出るほど欲しい、まさに起死回生の一手だと言える。問題は、虐殺をしておきながらその罪を他人に、ガルガスタンになすりつけることは一体どうなのかということで。バレたら効果は薄れるし、もしかしたら逆効果になるかもしれない。しかしバレさえしなければいいといえばいいわけなのだが。
・デニムは虐殺に加担する際に口にする。
・「わかっています。理想のために、この手を汚しましょう」
・「きれいごとだけで勝つことはできない」
また、ヴァイス戦ではヴァイスにこうも語る。
・「言うだけなら、誰だって言える。でも本当に大事なことは言葉よりも行動だ。
現実から逃げたおまえに何がわかる!」
・「僕は理想を棄ててなんかいないぞ!
一足飛びに理想を実現できるものかッ。現実は少しずつしか変わらないんだ。できることからやるしかないだろ。」
・「あせるなッ、時を待てッ!
少しずつ変えていけばいいんだッ!!」
こうしてデニムの思想・信条が様々に語られていくのだが。しかしこうしたものは果たしてどこまで堅固なものであるかと言ったらかなり疑問である。そもそもこうした信条ありきで決行されたのだろうか。あるいはこうしたものは後付けでも十分だと言えば十分である。少なくともデニム個人にとってこうした虐殺を正当化する理由が、虐殺実行移転で十分に必要だったかといえば疑問だといえる。
虐殺は非常に効果的だとわかった。そして決行する以外の選択肢はほぼないに等しく、上司であるロンウェー、そしてレオナールがやると言っている。そういう空気感の下にいるデニムにとってしないという選択肢がないと言っていい。重要なのはその組織的な空気感、空気の方向性であって、どこまで個人的な思いが優先されるかと言えば、それはあってもなくてもいいし、別に後付けであっても困らないといってもいいほどの立ち位置でしかないと言える。
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