この一言がもうすべてを告げてると言っても過言ではないインパクトを持つわけである。
①え?戦力が乏しいウォルスタが、戦力差のあり過ぎるガルガスタンと戦おうといっているのに非干渉っておかしくない?
普通、一緒に戦ってくださいと言いそうなもんでしょ?同盟とか共同戦線とか助力を乞うとか普通なるでしょ、とここでバールゼフォンは言いたいわけである。
さらに、
②巷にはゼノビアがウォルスタのバックについているらしいという噂がある。そうなると、助力はいりませんということが即ち、「もう間に合ってますから」ということを意味しかねない。ウワサはどうやら本当らしい、ゼノビアはやはりウォルスタのバックについているようだというその疑いをより増すような話の展開である。
そうなるともう後は徹底的にそこをつつくしかない。そういう状況でランスロット₌タルタロスを交えて会談は始まる。タルタロスが出てきている以上、ゼノビアとの関係がどうなっているのかを徹底的に探っておきたいのが既に見て取れる。
少なくともタルタロスが「非干渉OKだよ」と告げるだけのために出てくるはずがないのである。そんなことはバールゼフォンに任せてほっとけばいいわけだから。
タルタロスは「ブランタが興味なしと言っているので我々も同じ、中立を保とう」と答える。これで非干渉条約は締結された。
そこでバールゼフォンは尋ねる。
「しかし、貴殿らは我等の力なしで勝てるとお思いなのか?」
レオナールは答える。
「無理でございましょうな」勝とうとは思ってない、我々の願いはあくまで共存である。
しかし我らが他国の力を借りては穏健派を窮地に追い込みかねない、と言うのである。
ここをすかさずタルタロスはつつく。
「なるほど。貴公はバクラム人のように我がロスローリアンにツケをまわし、他民族の反感を買うようなことをしたくないと申すのだな。
これはおもしろい。ハッハッハッ。」
ここでタルタロスの念頭に置かれていることは次の通りになる。
ロスローリアンやバクラムと一緒にガルガスタンを攻める、なんてしたら穏健派云々なんて置いといて総力を挙げてガルガスタンは国防をすることになるから、それはしない、あくまで共存したいのだとレオナールは説いた。
①これに対し表向きは、ああ、バクラムの豚は卑しいと評判だからね。ロスローリアンの力を借りて、その陰でぬくぬくとしてるのが「バクラムの豚」と世間では言われているからね。と肯定するような立場で語っている。
しかしぞの実は
②え? ウォルスタとゼノビアって手を結んでるんじゃないの?共同で戦ってるらしいことは広く知られているし、誰も知ってるよ
③つまり、どうもゼノビアに協力してもらってウォルスタは国作りをしようとしてる、なんて話になれば穏健派を追い込むどころの話ではなくなる
従って、「ロスローリアンとバクラムの力は借りません」と言うこと自体が今の現状ではゼノビアと協力関係にあるからいりませんと告白しているに等しい。
そして言う。
「まあ、良い。我々も名誉を重んずるローディスの民だ…。汚い仕事は他人に委ね、享楽を貪るバクラム人のようになりたくないという気持ちもわかろうというものだ」
これによって、ゼノビアと協力関係にあると思しきウォルスタが汚い仕事をゼノビアに任せてその陰で享楽を貪ろうなんて軽蔑されて然るべきマネをしたりしてないよね、と言っているのだ。つまり、すでにタルタロスの頭の中ではバクラム―ロスローリアンのような協力関係はウォルスタ―ゼノビア間で築かれているのだろう、と言っているのである。
「名誉」というのは、今やその協力関係が噂となり広く知られているということをタルタロスが踏まえた上で、「ああいうのホント軽蔑するよねー」とそ知らぬ顔でレオナールに言っているというわけである。
そうして「いや、レオナールの連れている従者があまりに若いから」と続くわけでタルタロスの思惑とはずれていってしまうわけだが。
①従者が若いことを指摘する→明らかな人手不足、戦力不足→じゃあ猫の手も借りたいはず→なのに非干渉っておかしくない? とつつく思惑があったことは間違いないのである。
結局はゼノビアとの関係がどうなっているかを知りたいというタルタロスの思惑がある。
②「バクラムみたいに他人に汚い仕事を任せてぬくぬくとするやつ軽蔑するよねー」と釘を刺す、外堀を埋める。レオナールはこうして先手を打たれるわけだ。「もしも噂が正しく」ゼノビアとウォルスタとの協力関係が成立していることが発覚したならば?「そういうやつ軽蔑するよねー」と言ってたのに、あ、ウォルスタもバクラムと同じこと隠れてしてたのかとわかれば、それはロスローリアンに、そしてタルタロスに対する裏切りに等しい。隠れてコソコソやって実はゼノビアと仲良くやってたとわかれば。
つまり、もうゼノビアとの関係はほぼ明白だと言っていい状況下ではあるが、そこですぐにでもほつれるような信頼関係を演出することで、「レオナール氏に裏切られた」
「我々は被害者だ」
「あの時は他国から力を借りたくないと言っていたのに、まさか実はゼノビアと手を組んでいたなんて」とウォルスタに付け入る隙を作ろうとする思惑があるのではないかと。そうした便利なカードを一枚持っておきたい、というタルタロスの思惑がここから見て取れるのではないかとも思えるのである。
ゼノビアとの関係も知りたいが、こうして外交交渉によって今後の事態を有利に進めたい、いつでもウォルスタに対して切れる便利なカードが欲しいという思いもここから透けて見えるのではないか。
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