戦国策13、秦王と唐且の話

連チャンで書いてますが、内容もよく似てます。また安陵君の話ですね。
でも今度は始皇帝が登場してくるので、時代としては大分下っているようですね。
韓も魏ももう秦に滅ぼされた後の話というわけですから、時代が下るってのはまったく恐ろしいものですよね。
安陵君が魏から脅迫されてたなんてもう夢のような話で・・・笑



秦王(始皇帝ですがまだ始皇帝とは言ってないので秦王)が使いを安陵君の元へ送った。
「私は五百里四方の土地を出して安陵の地と換えてもらいたいのだがどうだろうか」
安陵君は言った。
「王におかれましては私めに施しをくだされて、大きな土地をこの小さな土地とお取替えくださるとのこと、まことにありがたいことです。
しかしながら何分先王より受け継いだ土地ゆえ、終生この土地を守っていく所存です。お取替えは致しません」
秦王はこれを聞き、不機嫌となった。
そこで、安陵君は唐且(とうしょ)を秦に使いに出した。
秦王は唐且に言った。
「私は五百里の土地を出して案陵の地と交換しようと言うのに、安陵君はなぜ断るのだ。秦は既に韓を滅ぼし魏を滅ぼしたというのに、安陵君がわずか五十里四方の土地で無事でいる。これは安陵君を一角の人物と見込んでのことであり、だからこそ手を出さずにおいたのだ。
今、私が十倍の土地で安陵君に土地を広げよと言ったにも関わらず私に逆らうということは、私を軽んじてのことだろうか」
唐且はこれに答えた。
「いいえ、そうではございません。安陵君は先君から任された土地をしっかりと守っております。たとえ千里四方の土地とでも交換は致しません。五百里四方ではなおのことでございます」
秦王はむっと憤り、言った。
「知っておられるかな、天子の怒りというものを」
唐且「臣はまだ聞いてはございません」
秦王「天子の怒りはだな、伏せるしかばねは百万を数え、流れる血潮は千里を染めるのだ」
そこで唐且は言った。
「大王は布衣(ふい、無位無官の者)の怒りを知っておいででしょうか」
秦王「なに、布衣だと。そんなものは冠を脱ぎ捨て、裸足になって頭で地面を叩きつけるのがせいぜいであろう」
唐且は言った。
「それは凡夫の怒りではございますが、士の怒りではございません。
かつて専諸(せんしょ)が王僚(おうりょう)を刺した時には彗星が月に襲い掛かりました。
聶政(じょうせい)が韓隗(かんかい)を刺した時には白い虹が太陽を突き通しました。
要離(ようり)が慶忌(けいき)を刺した時には青い鷹が御殿の屋根に打ちかかりました。
この三人はみな布衣の士でございます。
怒りを胸のうちに秘めて外に表さぬうちに不気味な兆しが天から降ったのです。
ここへ臣を加えて今四人となるところです。
士がひとたび怒れば横たわるむくろは二人。流れる血は五歩の間で、天下は白絹の喪服をまといます。
今日がその日なのです」
唐且は剣を抜いて立ち上がった。
秦王は青ざめ、ひざまずいて礼をし、唐且に謝して言った。
「先生、お座りください。そこまでなさることはございますまい。
そもそも韓も魏も滅亡したというのに、安陵が五十里四方の地でありながらもいまだ存続しているのは、先生あってのものに他ならないと悟りました」



・ちょっとだけ、いやかなり相当違和感のある話だなっていうのは、きっとこの秦王であり、始皇帝である政という男の別の話をたくさん見てるからだろうなと思っています。
今現に命を狙われているからとはいえ、果たしてここまでこの男が素直な男だろうかと思うわけです。仮に今だけ素直さを表に出しているとして、次の瞬間にはこの男は気が変わって、あるいは一難去ったがために安陵に大軍を送り完膚なきまでに壊滅しつくした、という表記や続きがあればその方がよほど違和感がない。そのくらい苛烈で決断力に富み、猜疑心が強く人を容易には信じない男として有名です。果たしてそうしたものがあるからこの話をそうかと受け取れないのが正しいのか、はたまた実はこの通りであり安陵はこの後も安泰であったのか。
個人的には前者なんじゃないの?と思っておりますが笑
まああまりここは気にしないで書くのがいいのかな笑

・一応余談しときます。
王翦(おうせん)という名将が秦にいました。この王翦が紆余曲折あって楚を攻めることになり、将軍に任じられ60万の兵士を負かされたことがありました。
この王翦、この秦王である政に向かってその行軍中にたびたび使者を送り、何度も何度も褒美の催促をしたと。
で、部下が
「あまりしつこいと秦王の機嫌を損ねるのでは・・・」
と心配したところが、
「そうではない。
秦王は猜疑心が強い。
60万もの兵士を委ねられているが、これが秦都に向かって進軍を始めるのではと少しでもわしを疑えば、すぐにわしを殺すための手を打つ男だ。
だからその猜疑心を起こさせぬために褒美の催促をしつこくしているのだ」
と王翦が答えたという話があります。



・この話というかこの秦王像を踏まえるべきか踏まえぬべきかというのは大きく今後が変わってきます笑のっぺらぼうなただの王どころかものすごく猜疑心の強い個性的な人物である政。
これを踏まえないとなると、もはや話の信憑性もクソもないなと思います笑
なんでここは当然「秦王は猜疑心がものすごく強かった」前提はあるべきでしょうね。
それを外して「あーやっぱこんなことやられたら誰だって心動かされるよねー」では全然ダメでしょう。
そんな生易しい話ではない。
「あの政ですらも動かされた」という話であるべきなのでしょう。
従って、
「これほど猜疑心の強い秦王ですらも、唐且の捨て身の訴えの前には心動かされた」のであると。
そのくらいこの効果は絶大であった、この話はそうした方向性を持っている前提でこの話は編纂されていると考えることにします。


・これは書いてて悲しいところなんですがね。
韓、趙が滅ぼされて。次に燕、魏が滅ぼされたと。で楚、斉が滅ぶってのは世界史とかで出てくるんですが、安陵はではどうだったのかとなるとそんなことはどこにも書いてない笑てか気にしたことすらなかった笑
わたし自身の不勉強なところですねーまたわかったら書きます。
滅ぼされようと生き残ろうとどうでもいいくらいの小国だったから誰も気にしなかったんすかね。
この国の行く末が気になるところです笑


・安陵君は前回も書いたのでさらっと流しますが。
先君が襄王に任されて憲法の文書を渡されたこと、そこに強い誇りを持ち、それに従っているということに強い意識を持っている、そして安陵の土地は特別なんだという強い特別意識、あるいは誇りがある人物であり、また部下を守るためなら魏の十万の兵を送るという脅迫も恐れなかった人物です。少なくとも表向きは、部下を大切にし、土地に誇りを持ち、脅迫に怯むこともない。
これが本当にそうなのかどうかは簡単にはわかりません。
ただ、こうして「いまよりも遥かに広大な土地をやるぞ」という秦王の提案に(実際には秦王の知恵袋でしょう)単純に飛びつくような人物ではない。



・安陵君が損得勘定のできるだけの至極単純な人物であれば、その提案を受け入れた先で滅亡していただろうことは容易に想像がつきます。
広大であるというだけの理由で土地の交換に応じれば、安陵君はその程度の人物なのかと天下に知れ渡ることになってしまう。
先祖代々の土地<広大な土地ってわけですから。
人々の信用を失えば、そこでの強さを失ってしまえば、あとは滅ぼすことも容易です。理由なんていくらでも作れる。
そもそもそんな大きな土地を持った勢力を、この秦王が滅ぼさないわけがない。
一手先、単純な目先の利益は、二手先の滅亡である。
安陵君はただ単に「私はこの程度の狭い土地で十分です」と言ったのかもしれません。そんな欲はないのだと。
「秦王がこの提案の先で自分を滅ぼすつもりだ」とまで見抜いた、あるいは政に関する情報を仕入れていたのかはわかりませんが(まあ仕入れるったって既に大国が立て続けに滅んでいるわけですから、こりゃあ秦はやばいぞってのは容易に分かる話なわけですが)、とりあえずここでは「無欲」を前面に押し出している。


・そうすると「オレの提案を蹴りやがった」ということで秦王は「へそを曲げる」わけです。
つまり、提案を受け入れても滅ぼすし、蹴っても滅ぼすと。
まったくもって厄介なヤツですよね笑
事あるごとにいちゃもんつけてくる笑


まあ安陵を最初から潰す前提でこの話は推移しているんでしょうけれども。


・で、唐且が登場します。
秦王はなぜ安陵君は提案に乗らんのかと問いただします。
唐且は、安陵君はただ自分の土地を守っているだけであって土地の広さは問題ではない、千里四方であっても問題でないのにまして五百里ではと言います。
ここでさらにへそを曲げる秦王。
もう魂胆ミエミエですよね笑
これを口実に安陵を滅ぼす気満々です。


・恐らく、
①提案に乗って土地を交換したところで殺すのが上策
②提案に乗らず、それに難癖をつけて滅ぼすのが中策
③提案に乗らず、有無を言わせず滅ぼすのは下策
そんな筋書がすでに秦王の側にはあったのでしょう。
ただ滅ぼせばいいのではない、滅ぼすにも大義がいる。口実がいる。
その筋書通りに話が推移すればという目論見があった。


・で、唐且としてはもう交渉は決裂している、というよりもうこの「へそを曲げた秦王」の機嫌を直すことは不可能だと思っていたと思います。問題の本質は機嫌がいい悪いではない、これは安陵を滅ぼすための口実つくりでしかないわけだからいくらでも屁理屈は通ってしまう。
通した後に口実を作ることだって十分できるわけですから。
戦争が起こる他ないとすら言える。



・この場合唐且としては、選択肢はもうひとつあったように思います。
①秦王を命がけで脅す←今回の話ですね
②有無を言わせず秦王を殺す

まあ③安陵を放置する とかもなくはないのか笑まあここでは考えませんけれども笑


仮に②を選んだとすれば、確かに秦王は死ぬし、この秦王が死ねばいろいろ歴史は変わるでしょうが、しかし間違いなく安陵は滅ぶといえるでしょう。
その意味では、大局的にはある意味ベストな手かも知れませんが、しかしここでは安陵が滅ぼされないことが前提なわけだから②は選べないわけです。いかにして安陵が滅ぶのを阻止するか、そのために行っているわけだから。



・前項での縮高は、主君である安陵君と安陵の地を守るために命を捨てました。
縮高は道を違えてはいない、立派な男ですという安陵君、魏の大軍すらも恐れない安陵君のために縮高は死ぬことを選ぶ。
「この親にしてこの子あり」じゃないですがこの主君にしてこの臣ありですよね。この人のためならば命を捨てても悔いはない。
それは傲慢だった信陵君の心すらも動かした。
このくだりも同じでしょう。
縮高のように、唐且もまた自分の命を惜しいとは思っていない。むしろ秦王を殺した後は自分も死ぬ気満々であり、自分は死ぬということを前提として秦王の脅迫にかかっている。それは縮高と同じで「安陵君のために」というものです。
主君のためならば自分の命すらも省みないという気迫、心意気の前に秦王はたじろいだ。
いや、あの秦王ですらもたじろぐほどの気迫があった、という表現が正しいのでしょう。


・そしてその後も秦王の中には、「まあ安陵なんて小さい土地どうでもいいか」というような思いがあった、だからこそこれ以上のいちゃもんをつけることはなかったという流れになったのではないかと。
特に猜疑心の強い秦王だからこそこれが効いたわけで。


従って、
①縮高、唐且と続く安陵君のために命すらも捨てるという心意義が示される。縮高のくだりはまるでここでの伏線だったかのように示されること。そうした流れがある。
②安陵君の示した無欲さ
このふたつがあって初めて秦に狙われず、滅亡を免れたと言えるのではないかなと。
もちろん、このふたつも
・秦が安陵を滅ぼそうとしている
というこの意図を読んでいなくては始まらないわけで。
大国が次々と秦に滅ぼされていく中でこのようにしてうまく生き残った、そうした稀有な例として考えた際に安陵についてのこの記述は輝きを増すと言えるのではないでしょうかね。








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