戦国策11、「士は己を知るもののために死す」

晋の豫譲(よじょう)は、初め范氏・中行氏(はんし、ちゅうこうし)に仕えていたがそれほど歓迎されなかった。
そこで去って知伯(ちはく)のもとへ行ったところが歓迎され寵愛された。
韓・魏・趙の三晋が知伯の領地を分割することとした時、趙襄子(ちょうじょうし)は最も知伯を憎み、殺した知伯の頭蓋骨で酒器を作った。
豫譲は山中に逃げ隠れた。
そこで「ああ、士は己を知る者のために命を捧げ、女は己を愛する者のために化粧をするのだ。わたしは知伯の厚遇に恩返しをしよう」と言うと、姓名を変え囚人に成りすまし、宮殿に入って便所の壁塗りをしながら趙襄子を刺し殺す機会を狙っていた。
趙襄子は便所に行くと胸騒ぎがしたので、壁塗りしている者を捕まえて問いただしてみたところがこの豫譲であった。
塗りごてには刃が仕込んであり、知伯のために仇を討つのだという。
側近の者たちは殺そうとしたが、趙襄子は
「彼は義士である。わたしが慎重に避ければ済むことだ。
知伯は死後に跡継ぎもいないのに、その臣が仇射ちをしようとする。
これこそ天下の賢人である」
と言って釈放してしまった。


その後しばらくして趙襄子が外出する機会があった。
豫譲は趙襄子が必ず通るはずの橋の下で身を潜めていた。
趙襄子が橋のたもとまでくると、馬が立ち上がった。
「これはきっと豫譲がいるのだ」
と思い、人をやって調べさせると果たして豫譲が現れた。
ここに至って趙襄子は豫譲を責めた。
「あなたは以前范氏・中行氏につとめていたが、知伯が范氏・中行氏を滅ぼしたときあなたは仇を討とうとはしなかった。そればかりか礼物を持って知伯に仕えた。その知伯はもう死んでいるというのにあなたはどうして仇討ちをしようとするのか」

豫譲は言った。
「わたしは范氏・中行氏に仕えていましたが、范氏・中行氏はわたしを並みの人間として処遇しました。だからわたしは並みの人間として報いました。
知伯はわたしを国士として待遇しました、だからこそわたしも国士として報いるのです」

趙襄子は嘆息し、涙を流しながら
「ああ豫譲よ、あなたが知伯のために報いるその名分はすでになった。わたしがあなたを許す心も既に十分に尽くした。決断の時だ、わたしはもう許さない」
と言い、兵士に囲ませた

豫譲は言った。
「「明主は人の節義を隠すことなく、中臣は死を惜しまずして名分を為す」と聞いております。以前にわたしを寛容に許してもらって天下には趙襄子の賢をたたえないものはおりません。今回のことについてはわたしは元より殺される覚悟はできています。
しかしなにとぞ趙襄子の上衣を貰い受け、これに討ちかかることをお許しくだされば、死んでもお恨み致しません。
本来は所望できる立場ではないと心得つつ、胸のうちを言わせていただきました」


趙襄子はその節義に感じ入り、使いのものに上衣をもたせ豫譲に与えた。
豫譲は剣を抜き三度跳躍し、天に呼びかけつつ趙襄子の上衣に討ちかかり、
「これで知伯への恩返しができた」
と言ってそのまま剣に身を伏せて死んだ。
死んだ日、趙の国の心ある人々は事の次第を聞き皆豫譲のために涙したという。



・個人的にはめっちゃ好きな話ですね。史記とかにも同じ話が上がってましたが、多分中国人は本質的にはこういう話大好きだろうなと思ってます。司馬遷も史記のあるべき姿とかを歪めてでも書きたかったほどでしょうから笑


・わたしはこの話から山中鹿之助を思い出します。でも彼だって「尼子復興のために」という大義を掲げて奮戦して回るわけですけれども、尼子には世継ぎがいましたからね。その言ってみれば旗印が中心にいるという状況ってのはすっと理解されると思います。尼子再興の理想、その中心としての世継ぎ。そう、まさに尼子をこの世界に復活させようとするわけですよね。
でも豫譲にはそうしたものがないわけです。
ここには決定的な断絶がある。
・「家」制度や脈々と受け継がれるものに対するある種の忠誠ってのは解ることが比較的容易いものだと思います。何々家に対しての御恩とか、先祖代々の血脈とか。そうした理解ってのは日本人の伝統ってのとかなり近いものがある。
・それを踏まえると、「個人への忠誠」というものがいかに異質ものであるか。世継ぎとかなく、一体その先に何を見出すのかと言われれば、そこには何もないわけですよ。
言ってみればそれは真の忠義の形かもしれない。この世の「効果」というものを超越している。そう、ここに至って「効果」ってのは頭をもたげてきます。単純な言葉で言えば「え?それってまったく意味ないじゃん!」ってことですよね。
つまり「意味のないものになんで命を賭けるのかわからない」って言われると思います。


・でもそこにあるエネルギーってのは決してバカにはできないものがあると思います。「意味がない、そして意味がないことに自らの一身を賭ける、人生そのものをかける」そして相手を殺害しようとする。もう先には破滅しかない、希望もクソも見出せたものではない。
そうした状況だからこそ表現されるものがある。もうなんか「効果」ってのを超越したところにある効果があるわけです。そう、言ってみればそれは「効果」ってのは物差しってのとセットになっている、その物差しが追いつかないところに、もうはっきりと物差しが役に立たないことがわかるほどにそのエネルギーってのは強烈なわけです。「オレの理解が全然追いつかない」という世界。
・これ「忠義」という文脈で測るからこうした形になってあまりよくわからないのかもしれませんね。
例えば「愛」って言葉を使って見たら現代的にはもう少しはよくわかるのではないかと。「愛」なんて言ったってこの言葉を測る文脈はやはり効果で測られるわけです。
「運命的な男女の出会い」それは科学的な物差しで測られたら、より免疫的な意味合いにおいて例えば優れている子孫が残せるかも知れない。なにか遺伝子的なレベルでのいい意味での変化に繋がるかもしれない。そうした意味で「運命」とか「奇跡」ってのは効果に変換されていく。効果ということで置換されるその文脈でみていけばその先には一体何が見出されるのか?「効率よく運命の出会いを探すこと」それの行き着く先は例えば優秀な科学者や優秀な学者の遺伝子をもらって「より良い子孫を残す」なんて結論に十分になり得るでしょう。また今日の技術力の進歩や経済の進展は、それをより行いやすくしている、そんな状況にあるわけです、「試験管ベビー」なんて技術はSFの話ではもうなくなっている。
・ではみんなで優秀な学者たち頭脳の持ち主たちだけの子孫だけ残しましょう、なんて話になったらどうなるか。でも、これって非常に現実的に効果の高い話だし、効率的な話ですよね。好きであるからとかそういう感情的なものを一切抜いて「考えられる限りでベストな結論に到達できるこの効率性」、すごいと思いませんか、これ。夢があるし、子供がもしかしたら大金を稼ぐIQを持って産まれてきたりするかもしれない。
まあ、個人的な感慨をここに付け加えるとしたらそれは最も理性的で効率的であるという体裁を伴った売春でしかないと思いますけどね、どれだけ表面を取り繕っても売春という形以外の何物でもない。最も賢明な形と結論をもった最も愚かしい結論のひとつ。わたしならそうして位置づけるかな。


・で、まあそうして「愛」ですらも「効果」に置換されるわけですけれども、じゃあ効果に置換されない愛とはと考えたときにそこに「美しいもの」を見出すことはできるのではないかなと。
・例えば相手のために命を賭け、命を落とすとか。命を落としたらもう子孫云々とか一切関係ない。むしろ効果という文脈で見たら全然効果的じゃない。でもそこには心を打つものがあるわけです。何かがある。
・「永遠」ってよく愛の文脈では出てくる言葉ですけれども、これがよく出てくるってことはつまり永遠でないものがいかに多いかってことを示唆していると思います。むしろそっちが言いたいんじゃないかなと思えるんですけれども笑恐らく人間のその不可能性ってのをバックに置いているからこその永遠なんだと思いますけれども。まあそれにしても永遠ってのとは程遠いですよね、この人間の現実は。そしてだからこそそうした見果てぬ夢に人は理想と憧れを抱く、そうした面はあるのかなと。
・また個人的な感慨ですけれども、所詮恋だ愛だといったってそうして必ずいつかは消えるわけです。では消えなかったものは?わたしはそれをこの時代は、この時代の人間たちは、いやこの時代だけじゃないけれども把握できる能力はないと思っています。皆無。皆目理解できない。

夢を描けなくなった。憧れを持てなくなった。自分の中にあるものを信じきるだけの力を失ってしまった。そうしたものを描くだけのエネルギーを持てなくなっている。便利な言葉にすがって、そのために夢や理想を捨てることのほうを選んでしまった。情熱に命を賭ける困難よりも楽な言葉にすがるほうを選ぶ、つまりは人間が今までの時代よりも圧倒的に小さくなってしまったってっわけですね。「永遠」なんて言葉に浮かされてだまされているほうがよほどエネルギーがあった。騙されるにもエネルギーがいるってわけです。そのエネルギー自体がないんだからこれはもう仕方がない。
永遠という夢を現実の困難の前に放棄するだけの人間でしかない。まあ、わたしだって警察の厄介になりたくないという気持ちはよくわかるわけですけれども笑
警察に監視されてなければろくに生きることすらもできない。警察は言ってみれば恋愛の「補助輪」代わりってわけでしょうね。
そういうのを「野暮」っていうんですよ、本来は笑


・全然豫譲の話と関係なくなった上に収拾がつかなくなった笑
最悪だ笑
まあこんな日もたまにはあるかー笑
続き書きます笑



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