戦国策6 聶政とその姉の話

聶政(じょうせい)は宰相を討ち、仇に報いると腰をかっさばき腸をつかみ出して死んだ。宰相を殺すときに王まで傷つけていることもあり、韓では聶政の遺体を市場にさらし、千金の懸賞をかけたが、長い間それが誰であるかを知る者は現れなかった。
聶政の姉はこの話を聞くと、「弟は優れた人物。わたしが自らの身を惜しんで弟の名を消し去ってはならぬ。弟の意にはそぐわぬことではあるが」と言って韓にでかけた。
遺体を見て「なんと勇ましく気高いことか。それなのに死後誰もその名を知る者がいない。父母はもういないし、兄弟もいない。こんな最期の遂げ方は(残される身である)わたしのためにしたことなのだ。身を惜しんで弟の名を立ててあげないことなど、わたしには耐えられない」と言って遺体を抱いて泣いた。
そして、「これはわたしの弟、深井里の聶政です」と言って自殺して果てた。
人々はこの話を聞いて言った、「聶政だけでなく、その姉も立派な人だった」
聶政が後世に名を残したのは、姉が死後身を切り刻まれて塩漬けにされる計となることをものともせず、弟の名をあげてやったからである。


・調べて見ると諸説ある話のようです。門番は切り殺したが失敗して死んだとか、宰相を切り殺したとか。
・きっかけは、「仇をとってもらいたい」という男が「自分を見込んでくれたから」その心意気に発奮して殺害に出向いたということのようです。ただし、「自分には老いた母がいる、母の最期を看取るまでは待ってもらいたい」と伝えてもいたようです。
・さらには姉も嫁いで行き、もはや自分には何も思い残すものがない。自分を男と買ってくれた人のために命を捨てようという心境のようで。


・「顔を削り、目をくりぬき、腸をかっさばいて死んだ」から身元がわからなかったということがあったようですね。身元がわからないようにして、自分を買ってくれた人へ迷惑がかからないようにした。もちろん姉のためにも迷惑をかけないようにした。自分を買ってくれたとはいっても、いくらなんでもここまでやるものかどうか、できるものかどうか。そうした、壮絶さ?苛烈さ?まっすぐな心意気?そういうのって中国人の好みにすごくマッチしている気がします。司馬遷も史記にわざわざ「義」に準じた人専用の項目とか作っていましたから。
「晋、楚、斉、衛の人々は二人を評価した」というわけですから、以下にこの話が広く広まったか。どれだけの影響力を持つ話だったかということでしょうか。


・仇を討ってくれという人に迷惑がかからないように、となるとつまり足がつかないようにという計らいで顔を削ったりしていたわけですから、それを「弟の名を後世に名を残すべし」と考えた姉は、やはり聶政の思いや狙いとはまったく異なる方向性を持っているわけですね。
だけども、そのために自らの(死後とはいえ)刑罰が自分の身に降りかかること、遺族のこと、夫のこと、そうしたものを引き換えにしてでも弟の名前を残すことを選んでいる。やはりこの弟にしてこの姉あり、といったところでしょうか。このふたりのもつそのエネルギーの凄まじさたるや。
徹底的に自分を消そうとする聶政、徹底的に名を残そうとする姉。方向性は真逆でも熱量のすさまじさは感じるところですね。


・「戦国策」的にはどうなんだろうか。「効果的」ということでいったら何が注目されるべきところなんだろうか。
仇を討って欲しいと言った男の熱量、それに応えようとした聶政の熱量、その壮絶な死に様を、名を残さねばという姉の熱量、はたまたそうした出来事事態がもたらした反響としての熱量。「晋、楚、斉、衛の人々は二人を評価した」その領域にまで伝わる、人々が心意気に呼応したその結果。
はたまたこういう書き方をすることで編纂した人自身が「もう効果なんてどうでもいいっす、編纂してるオレも効果を忘れて感動してますっす!」
なんてことを書きたかったのかもしれない。
とにかく、なんか戦国策自体が「効果」枠から逸脱している印象を受ける話ですよね。


・もしもそれでも敢えて効果をもとめようと思ったならば、この話が後世に伝わるその歴史的な方向性から効果を読み解くべきだろうか。晋、楚、斉、衛といった地域的な広さだけではない、その影響力は時代を超え、歴史を超越した。そんな大したことのない話であったならば人々は忘れる。誰も忘れてしまい、思い出されることすらなくなってしまう。実際には忘れられる話の方が大半だろう。ところがこの話は忘れられることなく、残り続けた。それだけの話がこの時代にあったということ。それを「効果」として読み解くべきであるだろう。

・まあしかし、こうして名前が残って公表されたこと、仇を頼んだ人物がばれかねない、足がつきかねない状況がもたらされたことを考えれば、その場、その状況を「効果」で考えればかなりマイナスでしょうけれどもね。効果でこの話を考えると話がずれ始める印象がやはりありますね。
「とてつもない熱量は、しっかりと後世にまで残る」これを効果、教訓と考えてこの話を読むべきではないかと思います。




この記事へのコメント

にほんブログ村 ゲームブログ ゲーム評論・レビューへ
にほんブログ村