戦国策3 司馬喜が陰姫を后にするよう工作する話

陰姫と江姫は共に中山王の后になろうと争っていた。
司馬喜は陰姫の父に言う、「もしも陰姫が后になればあなたがたは大きな権力を手に入れられるでしょうが、もしもならなかったら破滅です。ならばどうしてわたしの意見をお聞きにならないのでしょうか」
「その通りだ、どうすればいいでしょうか」と陰姫の父は言う。
そこで司馬喜は中山王に書状を送る。
「わたしは趙を弱らせ中山国を強くする方法を知っております」
中山王は司馬喜をすぐに召しだすが、司馬喜は「いや、実際にいってみて見なくてはなんとも申し上げられません」
そこで中山王は司馬喜を趙に派遣する。
趙王に会った司馬喜は「趙国は美人の多い国だと聞いてきましたが、全然美人がいません。それを思えば中山国の陰姫は素晴らしい美人でした」
趙王は乗り気になり、「ぜひもらいたい」と言う。
「わたしなどがどうこうできるようなものではありません。ただ、そのことはどうかお漏らしになられませんように」と司馬喜は答える。
中山国に戻った司馬喜は中山王に言う。
「超王は賢王ではございません。道徳よりは美人を、仁義よりは力士を好みます。わたしは趙王が陰姫という方をご所望だと聞いてまいりました」
中山王は不機嫌になる。
「趙国は大国ですから、陰姫をもらいにくることは確実です。与えなければ国は滅び、与えれば天下の物笑いになることは確実でしょう」
「では、どうすればよいのか」
「陰姫を后に取り立てて趙王の思いを断ち切られることです。世に人の后をもらいうけようとするものはおりません。またもらいうける機会を狙って見たところで隣国がそれを許さないでしょう」
それを聞いて中山王は陰姫を后とした。趙王からももらいたいとの申し入れはなくて済んだ。


・これによってどうせ司馬喜は陰姫の父から大金をもらったんだろうなあと思わせる一話。でも誰も貶めてないし、話を綺麗にすっきり纏め上げているのは素晴らしいと思える。なによりもここまで先を予見して話を進めることのできるこの構想と実現能力は素晴らしい。構想と弁舌のすばらしさは伝わってくるが、しかし司馬喜のその他の能力はあまり伝わってはこない。
・戦国策に紹介されるこうした人たちの構想能力・・・つまり事態を予見して概念的に把握する能力ってのはかなり非凡ではないかと思える。今でも果たしてここまで予見して構想を立てて実現化する能力のある人たちが果たしてどこまでいるか。「戦術的には」現代の方が段違いに素晴らしくなったといえるでしょうけども。まさにそれこそ現代。一手一手確実に、そして迅速に詰めていくことができる・・・とはいえ果たして「戦略的には」果たしてどうなんだろうか。
戦術的なものがあまりにも素晴らしくなりすぎて、そのためかその反面か戦略的な考え方がかなり苦手になっているという特徴はあるのかなと。
この司馬喜だって、
①陰姫の父に会う
②中山王に趙に派遣してもらう
③趙王に陰姫の話をする、吹き込む
④中山王に趙王が陰姫を所望していると話をする
⑤中山王の不安を煽って、陰姫を后にさせる
⑥陰姫の父から報酬をもらう
ここまでの六段階を踏まえて構想を立てながら、具体的に詰めて行く事に成功しているわけで。六手先のことを考えるってことがいかに難しいことか。現代人なんて所詮は一手先二手先にこだわるくらいがせいぜいだと思いますね。もちろん、そこまでして生き残ることと、栄華をいかにして手に入れるってことがある、そうした背景はあるとは思うものの、じゃあまったくそうではない現代という時代においてそうした能力が不要で役に立たないものかと言われたらまったくそんなことはないわけで。
むしろ現代にも役立てられる知恵が豊富にあるとわたしには思えますね。

この記事へのコメント

にほんブログ村 ゲームブログ ゲーム評論・レビューへ
にほんブログ村