張儀は楚王に会う。
「わたしは晋に行きますが、王は欲しいものはありませんか?」
楚王はとくに何もないという。
張儀はそれで「晋には美人が多いですが、紹介しましょうか」
と王に告げる、王は大いに興味を持ち、大金を与えた。
楚王の后と妻(戦国策1で出た人)は、この事態をひどく恐れて張儀に大金を送り、仲良くしようとする。
そして張儀は「出立に当たり王より酒をもらいたいと思います」というと王は快諾し酒をもらう。
「次に王のお気に入りの婦人方から酒を賜りたく思います」これも王は快諾し、后と妻とが現れて張儀に酒を楚を注ぐ。
「王、わたしは死刑にあたる大罪をおかしてしまいました」
「なんのことか」
「わたしは諸国を歩いてきましたが、これほどまでに美しい方を見たことがありません。美人を見つけてくるなどとウソを申してしまいました」
「もう良い、もともとわしも天下にこのふたりに並ぶものなどないと思っていたのだから・・・」
・張儀が「命がけの」お世辞を言ったという話。楚王にも嫌われず、后にも婦人にも嫌われず、大金は手にした。むしろこれでもかという最上のお世辞も言ったために好かれただろう。結果的には張儀が得をしただけの話。
・司馬遷が「張儀は危険だ」といったということだが、それもよくわかる話である、なにひとつしていない、しかし事態を完全に見通して最大限の結果を手にする。命がけ、行動力、そして構想の完成度の高さ。非常に頭がいい。しかしそれで嫌われるというのもよくわかる話である。
・完全に余談だが弁舌ということでいえば楚漢時代の酈食其(れきいき)も舌先だけで斉をくだした。功績ということでいえば連戦連勝の韓信の功績をその時点で上回る功績である。長い間の戦いは、一瞬の舌先に負けたというわけだ。
だが酈食其の欠点はその時点で韓信がまさかそのまま斉を攻め込むとは思っていなかったことであり、そこまで韓信が追い込まれるかもしれない状況を予想していなかったことである(攻めなければ君命に逆らうことになり、韓信のほうでは攻めざるを得なかった)。酈食其が張儀より遥かに劣る点であり、張儀がいかに非凡であるかを物語る例だと思う。
・美人を連れてくるという新たな火種を持ってくるということが、どのような影響を持つか、どれほど恐れられることかを張儀はよく把握している、そしてそれをうまく利用して事態を進めることに成功する。
いってみれば楚王、后、妻全員が張儀によって手玉に取られている。
確かに狡猾ではあるが、しかしここまでの構想の完成度の高さはすがすがしさすらも感じさせるほどである。
・しかしなんで大金を手に入れようとしてたんだっけ。小説十八史略にはなんか書いてあった気がするんだが思いだせん笑
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